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「おはよう、克哉」
波の音で目覚めれば窓の外はどこまでも青い空とエメラルドグリーンの海。
大都会ニューヨークから、ここ南の楽園モルディブに来た俺たち。
「あと5分・・・」
まだ眠たげな克哉がシーツに包まってむずがる。たしかに、昨夜は少し無理をさせた。
でも仕方ないだろう?初めて二人きりで旅行に来れたんだ。俺は嬉しくて、ティーンエージャーみたいに浮かれてた。
ここは楽園。血生臭い殺人事件も、頭のイカレた容疑者の精神分析も、今は関係ない。
でも、そろそろ起きてくれ。休暇の間、あんたとやりたい事が山積みなんだ。
「そんなにベッドが好きなら、丸一日ベッドから起き上がれないようにしてやろうか・・・?」
俺の囁きに克哉は慌てて飛び起きた。
『In These Words』NY市警のデビッド・クラウス刑事×精神科医、浅野克哉。
【2014年11月29日】
着替えてルームサービスの朝食を食べて、私たちはコテージを出た。
スーツか警官の制服に見慣れていた目に、デビッドのアロハシャツ姿は新鮮だ。
「今日は何をする?」
「まず海で泳ごう!それから美味い物食べて、買い物して、島を観光して、夜はムードのいいバーでカクテル飲んで……」
「デビッド、今日中にそれ全部やるのは無理だよ」
デビッドは子供みたいにはしゃいでいた。とてもニューヨーク市警の殺人課の刑事には見えない。
彼は陽気に笑うと私の腰を抱いて引き寄せた。
「本当はさ、あんたと一緒なら俺は何をやっても楽しいんだよ」
子供みたいな笑顔から、一転して包み込むような優しい眼差しになる。
二人一緒なら何をしても楽しいのは私も同じこと。
【2015年2月14日】
南国の海といえば、スキューバダイビングにウインドサーフィンにシュノーケル。なんなら波打ち際で水遊びでもいい……!
それなのに、克哉はさっきからパラソルの下で読書なんぞに夢中だ。
そんな事、ニューヨークのアパートでも出来るだろう。ここはモルディブのビーチなんだぜ!
俺には精神科医の頭の中がさっぱり理解出来ない。
「ドクター、そろそろ海の方に行きませんかね?俺は泳ぎたいんだが……」
「しっ、話しかけないで。今クライマックスなんだから」
本から目を離さずすげない事を言う克哉。その真剣な横顔にため息をついた。
どうやら読み終わるまで俺に構ってくれる気はなさそうだ。
他にする事がない俺は、仕方なく克哉にサンオイルを塗りながら読み終わるまで待つ事にする。
……ところであんた、一体何の本読んでるの?
【2015年8月30日】
「皿まで食いそうな勢いだな」
デビッドの言葉に食べる手を止め顔を上げた。
目の前の男は頬杖ついて、意地悪な物言いとは裏腹にうっとりとした顔で私を見ていた。
「泳いだり歩き回ったりしてお腹が空いてたんだよ」
「まるで欠食児童みたいだな。でも気持ちのいい食べっぷりで俺は好きだけどね、先生」
ここは海中に作られたレストラン。私たちは海の中で食事をしている。どこを見渡しても青一色の風景だ。
漁業が盛んな島に来て尚、相変わらずステーキを注文する私に彼は半ば呆れ顔だった。でも──。
「たっぷり食べてエネルギー蓄えておけよ?……夜には消費しちまうんだから」
そんな言葉を小声で囁かれ、思わずむせた。
【2015年10月18日】
コテージに戻りシャワーを浴びてバスルームから出ると先に上がったはずの克哉の姿がなかった。
「克哉?」
「ここだよ、デビッド」
その声に誘われバルコニーに出ると金色の光の中に克哉が立っていた。
空も海も黄金に染まり太陽は水平線の彼方に沈もうとしていた。
長かったモルディブの一日が終わる。
「見事な夕日だな」
こんな美しい景色の中に居るとニューヨークに帰りたくなくなる。
すると克哉は──。
「この景色をあなたと一緒に見られて私は凄く幸せだよ……」
そんな嬉しい事を言ってくれる恋人の身体を、俺は力いっぱい抱きしめた。
【2015年11月29日】
目覚めの情景から描き始めたばっかりに「絵日記風に彼らの一日を描こう」と思ったのが運のつき(笑)
途中でやめるわけにはいかず、最後まで描ききりました。きっちり一年かかったよ……(疲労困憊)
原作では別れた恋人たちなので、せめて二次創作で幸せにしてやりたかったのです。
【2015年11月29日】