いつもとはちょっと違う妖しい雰囲気を目指してみました・・・。
[2008年 11月 5日]
どんな話が聞きたいの? 俺の色っぽい体験談? あんたが思っているほど経験豊富じゃないけど、まあ……ない事もないな。 ただし、相手は女じゃないぜ? ……いいの?もの好きだね、あんたも。 聞きたいなら話してあげてもかまわないけど。 今、この店にはあんたと俺の二人きりだし、今夜はもうお客は来そうにないからね。 そのかわり、誰にも話さないと約束してくれ。 言っとくけど、あんたにはつまらない話かもしれないし、理解できないかもな。 わりと最近の出来事だ。 不思議な体験をした――。真夏の、暑い昼下がりだった。 朝から雲ひとつない青空が広がっていた。 強烈な直射日光から逃れる日陰もない牧場の草地を、俺はその人と歩いていた。 その人は俺より9歳も年上の男で、外国人で、少佐という肩書を持った生真面目な軍人だ。 外国の軍人とバーテンダーの俺――。住む世界がまるきり違う俺たちがなぜ出会い、こうして共に過ごしているのか不思議かもしれないが、まあ、そこは縁というやつだ。いろいろあったんだよ。 その男は驚くほどの美貌の持ち主だった。 決して女っぽい顔立ちでも少年のような若々しさがあるわけでもない。 れっきとした大人の男だ。 クールでシャープな美しい顔としなやかな痩躯の長身。 性格はクールかと思えば情に厚い。 だが、戦闘においては確実に相手を倒す非情な一面も持っていた。 強くて優しくて気高い、俺の手には負えないような大きな人間。 彼は俺の憧れであり、俺の行く道を照らす天使であり、最も大切な存在で、そして……。 そして、誰よりも深く愛していた。 その日は午前中から二人で彼の叔父さんを訪ねていた。 会社を経営する傍ら乗馬をたしなむ彼の叔父さんは、多くの馬を育てていたが、その日はその叔父さんが所有する牧場で昼食に招かれていたんだ。 上流階級のランチなんてさぞ居心地が悪いだろうと思っていたけど、美味い料理に美味いワイン、庶民的で気さくな叔父さん、美人で明るい奥さん。なにやら思いのほか楽しい昼食会で、叔父さん一家とは初対面の俺もすっかり打ち解けていた。 そして、その帰り道――。 公道に出るまで回り道して、散歩がてらに草地を歩いていて小高い丘に差し掛かった時。 あんなに暑かった大気に冷たい風が混ざり始めてきた事に気が付いた。 見上げると染みひとつなかった空に黒い雨雲が立ちこめている。 「雨が来るぞ」 言われて、たしかに雨の匂いがする。 遠く雨雲の奥で稲妻が走った。 それに続いて雷鳴が轟く。 確実に雷雨が迫っていた。 思った以上に広い牧場はまだ出口には遠い。公道までまだ何キロもありそうだ。 とうとう雨粒が落ちてきて俺たちは慌てて走った。 雨粒はやがて矢のように降り注ぎ、そして叩きつける滝のようになった。 雷鳴が近づいてきている。 濡れるのは仕方ないが、雷はまずい。 雷はゴルフ場やこんな何もない草地に落ちやすいものなんだ。 その時、走り続ける俺たちの目に一軒の小屋が映った。 迷わず一目散に飛び込んだ。
そこはずいぶん殺風景な古い納屋だった。 部屋の隅にはセメントやら石灰やらの袋が何袋も積み上げられている。 壁際にはこまごまとした工具や農作業に使うスコップや鎌なんかの道具が幾つも掛けられてあった。道具や材料の物置に使っているらしい。 部屋の中央には食事をするためなのか、何かの作業をするためなのか、あまり高くはない大きなテーブルとベンチ型の椅子。 埃っぽい納屋だが雨宿りには充分だ。 ただし引き戸は壊れていて開けっぱなしの状態だ。 酷い土砂降りだが風がないから中まで雨が吹き込んでくる事はないだろう。やっと人心地つくと、濡れた服が気になった。 ずぶ濡れで冷えて身体に貼り付く。 せめて上だけでも、と思いTシャツを脱いだ。 「あんたも脱げば?」 と男に声をかけたが返事はない。 彼は開け放たれた戸口に立って降りしきる雨を見ていた。 腕時計を見ると午後2時――。 とてもそんな時間には思えない。厚い雨雲のせいで外は夜かと思うほど暗い。 その時、空に閃光が走った。 一瞬、白い光に男の後ろ姿が照らし出される。 遅れて雷鳴が轟いた。近い。 本格的に雷雲がやってきたようだ。 空に幾筋もの稲妻が走る。 綺麗だな、と彼は空を仰いだまま言う。 ああ綺麗だ、と俺は答えた。 だが、空を見てではない。 男から目が離せなくなった――。 フラッシュライトのように白い閃光を浴びた男の後ろ姿。 逆光の中、白いブラウスの中で彼の身体の線がくっきりと浮かび上がっていた。 肩から腰に到る華奢な体つき。背中のライン……。 もっと近くから見たくて、俺は男の傍まで歩み寄った。 また空が光った。 俺を見上げる彼の端正な顔が強い光に照らし出される。 驚いた……。 蜂蜜色した髪は白金色に輝き、肌は色をなくし、ダークブルーだったはずの瞳は明るい水色になっていた。ちょうどブルーキュラソーみたいな色だ。 ああ、知ってる?ブルーキュラソー。カクテルに使うリキュールだ。ビーチやプールサイドでよく飲む“ブルーハワイ”のあの色だ。 とにかく、強い光の悪戯で彼の持つ色彩は全部変わっていた。 彼じゃないみたいだったが、それでも息を飲むほど美しかった。 「綺麗だ……」 だから俺はもう一度そう言った。 髪から滴る雨が頬を濡らし、首を濡らし、鎖骨を濡らし、胸の中へと流れていく。 ずぶ濡れの白いブラウスが身体に貼り付き、胸の先端の小さな突起が透けて、その淡い色までくっきり浮き出ていた。 男は何も言わず黙って俺を見つめていた。 俺が何を見て、何を考えているのか、わかっていただろうに……。 「脱げば……?」 先程と同じ言葉を、俺は繰り返した。 それに対して男は相変わらず返事をせず、俺も返事など聞く気はない。 俺は彼の胸に片手を伸ばし、ブラウスのボタンをゆっくり外す。 上からひとつ、またひとつ、またひとつ……。 俺たちはお互い相手から目を逸らさず、言葉も交わさなかった。 すべてのボタンを外すと、そっと襟を左右に開いた。 ブラウス越しに透けていた突起が露出して、そこを指先でなぞる。 先端が堅くしこると指で摘まんでさらなる刺激を与えた。 男が、薄く唇を開いた。 唇は徐々に大きく開かれ、赤い舌がちらりと蠢いて俺を誘う。 意識してか無意識なのかはわからない。 俺は男に強請られるまま舌を唇の中へと差し入れると、彼はそれを吸った。 身体の芯までとろけるような口付けをされて、俺の中のオスが目覚める。 俺は唇を離すと彼の上体をきつく抱き締め、胸の突起を口に含んだ。 「ああ……」 と、一言……。甘く喘いで、男は俺の腕の中で大きく仰け反った。 閃光が走った。 仰け反る男の顔が照らし出される。 俺の唾液に濡れて光る唇。 欲に濡れたブルーキュラソーの瞳。 その飢えた瞳が、俺を正面から捉える。 壮絶に美しくて、どうしょうもなく淫らなその顔――! 雷鳴が、納屋を震わせるほどの音で轟いた。 次の瞬間、俺は不可解な言葉を叫んでいた。 「ガニュメデスよ!俺を誘惑するつもりなのか!?」 この時、俺はどうしてこんな言葉を口走ったのかわからない。 類いまれなる美しさ故にゼウスにさらわれた羊飼いの美少年と、この男を重ねて見た事など一度もない。今まで思いつきもしない。 俺はギリシャ神話には興味もないし、神話を引用するようなロマンチストでも柄でもない。 だいたい自分はどうしてそんな名前を知っていたんだろう……。 何かの思念が俺の中に入り込み、勝手に喋らされているような不思議な感覚……。 思えば、異変はすでに始まっていたんだ。 俺の叫ぶ言葉に、男の口元はそっと、こっそり……笑っていた――。 挑むような、誘うような、どこか嘲笑うような、酷く淫靡な笑い。 いつもの彼ではない。 俺の汚れた欲を見透かして、そこにつけ込んで、煽っては楽しむこの美しい男に酷く腹が立った。 だが、同時に猛烈に欲情した。 俺をからかって煽った事を後悔するがいい! その感情は憎しみにも似ていた。 そんな風に思うあたり、俺の方こそ狂っていたのかもしれない。 仰向いた上体に覆いかぶさり、噛み付くように唇を重ねる。 口内を貪りながら慌ただしく男のズボンのベルトを外し、ファスナーを下ろし、中に手を潜り込ませた。 俺の手の動きに、男の喉から鼻にかかった高い呻きが漏れる。 手の中のものが勃ち上がるのと入れ替わるように、膝から力が抜け男は俺の腕の中で崩れ落ちた。 すかさず抱き上げて再び驚く。 軽い……! もともと細身な身体という事を踏まえても、軽い。 羽のように軽い身体をテーブルまで運んで乱暴に下ろした。 正直に言おう……。 その時の俺は、愛とか恋とかは関係なかった。 大切な人を抱くという思いではない。 こんなに、この男が自分の命以上に大切な存在なのにもかかわらず、だ。 下品な言い方を許してくれるなら、この細い腰に突っ込みてぇ!って思いしかなかった。 たとえ男が嫌がっても、酷く抵抗したとしても、構わない。 ヤリたくてたまらなかったんだ。 事実、彼は怯えて逃げようとした。 上体を起こし後ずさりする腰を掴んで引き戻す。 そのまま下着もろともズボンを膝まで一気に引き下ろした。 必要な所だけ露出させて、うつ伏せにして、後ろから突っ込もうと思っていた。 ところが――。 何なんだ、この身体は……。 ブラウスは肌蹴てズボンは下ろされ、晒されたそれは少年のような身体をしていた。 この男の身体は何度となく見た事がある。 たしかに華奢な体型はしていた。首も腰も手足も細い。 それでも大人の男の身体だ。細身ながらも鍛えられた筋肉があった。 もう一度言うけど、この人は俺より9歳も年上でつまり30を超えているんだ。しかも職業は軍人だ。相当な訓練を受け実戦も経験してきている、そんな身体だったはずだ。 確かめたくて、抗う男を押さえつけて着ている物をすべて剥ぎ取った。 靴も、腕時計すらもその身体から取り去った。 全裸にされ、俺の目から隠すように身を捩っているその姿態は……。 未成熟な少年そのもの――。
オマエハ一体誰ナンダ? 薄い胸、突き出た腰骨、小さな尻、細い脚。 雷光がその身体を照らす。 染みひとつない肌は乳白色をしていた。 それに、男の身体はいい匂いがした。 彼が普段かすかに香らせているいつもの香水ではない。 熟しきってない果実のような、それでいて甘いような……。 たしかにどこかで嗅いだ事がある……。 未成熟でありながら匂いたつような肌、艶めかしい姿態。 男に抱かれるための身体――と思った。言っとくけど俺は少年を抱く趣味はない。もともとは同性愛者ではないんだ。少なくてもこの人に出会うまでは……。 だが、目の前の艶めかしい姿態に心底興奮した。 これは間違いなく俺が愛したあの人のはずだ。 たとえ別人のような表情で少年のような身体つきをしていても。 裸にされテーブルの上で震える男は、祭壇に上げられた生贄のようだった。 俺は神になった気分で悠然と自らもテーブルに上がる。 だが……。 あんなに身を捩って怯えていたはずの男の目が細められて、そして……。 またこっそり笑っていやがった――。 俺がジーンズのファスナーを下げ張りつめた自身の物を取り出すと、男はそれを見てついに怯えるフリを止めた。 上体を起こし真正面から俺に向き合うと、ゆっくり大きく脚を開いていく。 腰を突きだすように浮かせ、すでに勃ち上がっている股間の物を握り、上下に動かす。 後穴まで見せつけるように浮かせた腰を揺らめかせて舌舐めずりをする。 今にも笑い声が漏れそうな、笑みを湛えた口元。誘う赤い舌。真正面から俺を見上げる熱の籠った眼差し。 もう、やめろ……! いたたまれなくなった……。 もう、それはあのクールで生真面目な軍人ではなかった。 あきらかに俺が知っているあの人ではない! 俺の最愛の人の顔をした淫獣――。 ぞっとした……。 この淫売!お前は一体誰だ! 前戯も、後ろの小さな穴を解すような事も一切しなかった。 男をうつ伏せにし、脚を開かせ、腰を高く突き出させると、その中心を一気に貫いた。 雷鳴をもかき消すような男の悲鳴が辺りに響いた――。 本当に――。 おかしくなっていたのは俺の方だったのかもしれない。 屋根のある場所とはいえ、引き戸が全開で外から丸見えのほとんど屋外といえるような所で、こんな埃だらけのテーブルの上で彼を全裸にして……。しかも他人の敷地内だ。彼が上げる悲鳴に彼の叔父さんが駆けつけてきて、この場面を見たらどう思う?大事な甥っ子が男に後ろから犯されているんだ。 男は声を上げる事に少しの躊躇もないようだった。 尾を引く甘い声は泣き声にも聞こえる。俺に媚を売る、甘えた高い声……。 仰向けにして正面から挿入し乱暴に何度も突き上げると、逃すまいと俺の腰に両脚を巻き付けてくる。 うっとりと悦びの表情で舌を差し出して口付けをせがむ。 犯しているのは俺の方なのに、逆に犯されているような気がする。 あまりの淫靡さに恐ろしささえ感じた。 だが、夢のような抱き心地に、肌の甘さに、止める事が出来ない! こいつは何者なんだ? 俺はどうしちまったんだ? 俺たちに何が起こったんだ? もう、何もかもわからない! しなやかな背に腕を回し、仰け反られた上体をかき抱いて腰を蠢かしながら、俺は肉食獣が獲物を食い散らかすようにその淫らな身体を貪った。 俺たちは相手の名を呼ぶ事も睦言を囁くでもなく、最初から最後まで一言も言葉を交わさなかった。 二人の荒い息使いと、男の甘ったるい喘ぎ声だけが雨音と雷鳴の中で聞こえていた――。 「雨、上がったみたいだな」 男の、その声で我に返った。 たぶん、ほんの一瞬だったと思う。 俺の意識は空白になっていた。 気がつくと、俺はテーブルの縁にぼんやりと腰かけていた。 脱いだはずのTシャツは……いつの間にか着ている。 そして、あの人は――。 ちゃんと服を着ていて、戸口に凭れ掛かって空を見上げていた。 のんびりと煙草をくゆらせて、とてもさっきまで嬌声を上げながら腰を振っていた男とは思えない。 俺は、夢でも見ていたんだろうか……。 だが、身体に快楽の余韻が残る。男の身体の感触も、肌の匂いも鼻腔に残っている。 あれは一体何だったのか……。 雷光が見せたひと時の幻だったのか? ランチで飲んだほんの少しのワインで酔ったのか? 余韻を感じるほどの酷く生々しい真夏の白昼夢……。 俺はテーブルからのろのろと腰を上げてあの人の隣に立った。 空を見上げると、彼の言葉通り雨雲は去って、陽が差し込んでいた。 横に立つ彼をそっと盗み見る。 蜂蜜のような色調の金髪、ダークブルーの瞳、すらりとした筋肉質の痩躯。 俺が知っているいつものこの人の特徴。 ほっとした。……はずだった。 首筋に赤いあざ……? 思わずブラウスの襟を摘まんで胸元を覗き込む。 鎖骨の辺りに……もうひとつ……。 本当に……夢なのか……!? 「ふざけるのはよせ。行くぞ」 淡々とした声でたしなめられ、襟を摘まんだ手をパチンと叩かれた。 紫煙を吐き出しながら彼は外へと歩き出す。 その時、俺はたしかに見ちまった……。 煙草を挟んでいた彼の手が、震えているのを――。 この日の出来事を、その後俺たちはどちらも決して口には出さなかった。俺の話はこれでオシマイ――。 どう?なんだかよくわからない話だったろ? あの日の出来事は何だったのか、今でもわかんねえのよ。 俺はよほど酔っていたのかな……。 でも夢オチで片付けるには説明つかないんだわ。 それとも、こんなのはどうよ。 空の上から好色な誰かさんが俺たちを見ててさ、あの人があんまり綺麗な男だったから俺たちを操ってエッチな事させて見物してた、ってのは?……なんかムカつくな……。 あの人が天にさらわれちまうよりいいけどさ。 こんな話でも楽しかった?……サンキュ! くれぐれもこの話は他言しないでくれよ? あんたも真夏の昼下がりの雷雨には気をつけた方がいいぜ。 天上に居る誰かさんに悪戯されないようにな。 もうじきカンバンなんだけど、よかったら最後にもう一杯飲まないかい? これは俺からの奢り。飲んでみて? ど?美味い? アドニスって名前なんだ、そのカクテル。 神々に愛された美少年の名前さ。 あの時のあの人の肌の匂い、覚えがあると思ったんだけど、やっと思い出したよ。 そのカクテルの香りだったんだ。 俺は美少年には興味ないけど、アドニスもガニュメデスも美少年は共通してスイートベルモットの香りがするのだとしたら……。 ちょっと素敵だと思わないかい? fin写真素材: らばQ 苑トランス Four seasons![]()
いつもとはちょっと違う妖しい雰囲気を目指してみました・・・。
[2008年 11月 5日]