2010年のクリスマスSS『Night Runners』の続編になります。外見も中身も泥棒と紙一重なアクセル・トナカイとハリー・サンタ。この二人の天敵は警察らしいw
相変わらずななめに突き進むクリスマス話ですみません(^^;
[2017年 1月 7日]
『72丁目のコンビニエンスストアで強盗事件発生。犯人は北に向かって逃走中。20代男性、白人、身長およそ190センチ、黒髪、黒のレザージャケットに黒のパンツ。武器の所持は不明。近くをパトロール中の車両は至急応援を──』 午前3時──。まだまだ聖夜で賑わう繁華街を俺は死に物狂いで走っていた。パトカーのサイレンが増え、それはどんどん近づいてくる。もう走れない。俺の肺は破裂寸前だ。 ついに3台のパトカーが俺をビルの壁に追いつめ取り囲んだ。パトカーから降りた警官たちが一斉に銃を向ける。 「両手を頭の上に乗せろ!」 もはやこれまでだ。観念してホールドアップするしかなかった。 「そのまま地面に腹這いになるんだ!」 言われた通りにアスファルトに伏せると、両手を後ろに回され手錠がかけられた。 「お前には黙秘権がある。供述は法廷で不利な証拠として用いられる場合がある。なお、弁護士が必要なら……」 そんな意味の分からない言葉が、まるで異国の歌のように俺の頭を素通りしていった。 ──なんでこんな事になったんだろう。俺は何もやっちゃいないのに。
ジングル・クリミナル ___________________________________________________________________12月24日深夜──。世界中を飛び回った俺たちの仕事は今年も過酷だった。 最も寒い国では氷点下60度を下回る。地上2,000メートルの上空だと更に厳しい寒さだ。サイドカーの相棒は鼻をすするもすでに凍ってツララになっている。色男も台無しだ。風をまともに顔面に受けている俺なんか風圧で鼻水のツララが斜めに伸びていた。 今日は年に一度の大仕事。どんなにつらくても世界中の子供たちが俺たちを待っている。世界一有名な配達屋が届けるのはオモチャだけじゃない。夢と希望と愛……。それって人が生きていく上で最も大切なものだろう? 俺たちはまさにヒーローなんだ。 日付けが25日に変わって午前2時半を回っていた。 「よし、これで終了だな」 「お疲れ、サンタ」 最後の一軒にオモチャを届け、俺たちの今年の仕事は無事終わった。 「早く帰って風呂に入ってビールでも飲みたいな」 まったく同意だ。サンタクロースとトナカイだってクリスマスを祝いたい。普通の人間だったら過労死するような激務をやり遂げたんだ。慰労会も兼ねて少し贅沢に一杯やりたかった。 「あ、でも帰っても冷蔵庫が空っぽだった……。食い物と酒買って帰る?」 飲兵衛のサンタがそれに異議を唱えるわけがなく、俺たちは繁華街まで足を延ばした。 24時間営業の食品店の駐車場にエアバイクを停め店内に入る。だが、ここは酒を置いてない。結局サンタが食い物を買っている間、俺は1ブロック先のコンビニで酒を買う事にした。酒を買ったら戻ってくるとサンタに言い残し、俺は一人でコンビニに向かった。 コンビニといっても商品はほとんど酒かつまみだ。深夜の店内はアジア系の男の店員が一人、客は3、4人ほどだった。 俺はカゴに6本入りビールを2パック放り込み、バーボンも1本追加する。そして通路を回ってワインの棚の前に来た時、ドアチャイムが鳴ってまた客が入ってきた事を告げた。 「お前ら全員そこを動くな!」 その声に驚いて入り口を振り返るとピストルを構えた男が立っていた。 「全員その場に座れ! お、大人しくしてないと頭吹っ飛ばすぞ!」 ──強盗!? 言われた客たちは慌ててその場に座り込み、俺もそれに倣う。どの顔も恐怖で顔面蒼白だ。人は本当に恐怖を感じた時は悲鳴など出ないものらしい。不気味なほどの静けさの中、男の声だけが響いていた。 「おい、レジを開けろ! か、金だ! 金を出せ! さっさとしろ!」 男は声も身体も震えていた。慣れてない様子から、初めてか、もしくはヤクが切れて切羽詰まっての犯行かもしれない。いずれにしても男はひどく興奮していて、いつ発砲するかわからなかった。 ピストルの銃口でせっつかれた店員が「撃たないでくれ、撃たないでくれ」と小さく呟く。震える手でレジを開けると男がそこから紙幣をわし掴み、ジャケットの左右のポケットに突っ込んだ。それは大した枚数ではなかったはずだ。 「まだそこを立つなよ。立ったらぶっ放すからな」 男は銃口を向けたまま入り口へと後ずさり、そして外へと飛び出していった。 ──くそ、逃がすかよ……! 不幸な事に俺の中の「正義」スイッチが押されてしまった。よせばいいのに、俺は立ち上がると「待て!」と叫び、そのコンビニ強盗を追って店を飛び出した。 全力疾走で逃げる強盗を追う。バイクばかり乗っていて運動不足気味ではあるが、トナカイの脚力をナメちゃいけない。少しずつ男との距離が縮まってきた。その時、男が路地裏に入った。 ここから先、どっちに行った? 右か、それとも左か……。 一瞬立ち止まり考えていると、背後から信じられない言葉が飛んできた。 「こ、こいつ強盗だ……。おまわりさん! この男強盗ですよ!」 ──はい? 振り返るとスーツを着た中年男が俺を指差し叫んでいる。そして運悪く、パトロール中らしい二人の警官が通りかかったところだった。 「私見てたんですよ、この男があのコンビニから猛スピードで飛び出してくるのを! そしたら店の人が強盗だって叫んでて……」 ──ちょ、ちょっと待って。それ勘違いだから! 俺の前を走っていたのが犯人だから! 残念ながら俺の風貌は堅気には見えないらしい。長身で全身黒ずくめの恰好が絵に描いたようなストリートギャングに見えるのだと思われ……。そんな俺の悪印象は警官たちも感じたらしい。警官の目が険しくなる。善良な市民の証言もあり俺は完全に犯人決定だった。 「ち、違うって! 俺じゃないから! 俺の話を……」 聞いてくれる気はないらしい。警官たちはこっちに向かって駆けだした。思わず俺はくるりと背を向けて逃げるしかなかった。※ ※ ※ かくして俺は連行され、警察署の二階にある取調室に居る。 「名前は?」 目の前には二人の刑事。そのうちの一人が俺に問う。本当の事を話しても、おそらく何ひとつ信じてはくれないだろう。だが、黙ったままでいても取り調べが長引くだけだ。 「トナカイ……」 仕方なく小さな声で呟くと、案の定刑事たちは顔を見合わせてため息をついた。 「ニックネームじゃない。本名を訊いてるんだ」 「だからトナカイ。それ以外の名前なんてねぇよ」 「……まあいいだろう。トナカイ、仕事は何をやってる?」 納得いかない答えだとしても訊き出す事が多いからか、刑事の質問は次に進んだ。 「配達屋……」 「運び屋か。何を運んでる。ヤクか? ハジキか?」 「主に、オモチャだけど」 「オモチャ? そんな隠語は聞いた事ないな……。具体的に何だ?」 「具体的って、ええと……人形とかぬいぐるみとか、あとプラモデルとか、かな」 もう一度刑事たちが顔を見合わせた。眉間のシワが深くなる。 「お前はサンタクロースのつもりか?」 「違うよ。言ったろ? 俺はトナカイ、運転手だ。サンタクロースは俺のボスだ」 二人の刑事がドン引きしてるのがよくわかる。一人が「イカレてる」と小さな声で言った。 「お前、ヤクをやってるな?」 「やってねぇよ」 「嘘をつくな! お前のようなジャンキーは嫌になるほど見てきたんだ。連中はみんなヤクが切れると妄想にとりつかれる。今のお前のようにな!」 「やってねぇって言ってんだろ! 俺は風邪薬すら飲んだ事ねぇよ!」 つられて思わず語気が荒くなる俺を、刑事たちは不敵な笑いを浮かべて見下ろした。 「お遊びはここまでだ、ミスター・トナカイ。そろそろ本題に入ろう。で? 盗んだ金と銃はどこに隠した?」 「逃走中に隠してきたんだろ? 洗いざらい吐くんだ!」 二人の刑事が交互に詰め寄ってくる。 この取調室に連れてこられてすぐに身体検査された。でも俺の所持品は財布ひとつだけだ。金も酒を買えるだけの紙幣と小銭だけ。今どきの中学生の方が金を持ってるだろう。身分を証明する免許証やクレジットカードとやらもない。もちろん銃など持ってるわけがない。 「何度も言ってるけどさ、俺はあの店に居合わせた客なんだ。そこに強盗がやってきて、逃げるそいつを追っかけてたんだって。犯人は別に居るんだ。ちゃんと調べてくれよ!」 至極まっとうな供述だが、俺の身元はわからず質問の答えもイカレてるとしか思えないような内容じゃ、そのまっとうなはずの訴えもまともに受け取ってはもらえなかった。 「じゃあなんで逃げたんだ?」 「だって、追いかけてくるから……」 沈黙が訪れる。一人が部屋の中をゆっくり歩きまわる。コツコツという靴の音だけが部屋に響いた。 「さっき、サンタクロースはお前のボスだと言ったな?」 そいつがぴたりと立ち止まり、俺に射るような視線を向けた。 「サンタクロース……それがお前の雇い主のコードネームなんだな? 組織の名は? お前のような運び屋はどれくらい居るんだ?」 どうやら、刑事たちはコンビニ強盗の事件より俺が麻薬密輸グループの一員かもしれないって事の方に関心が向いたらしい。 次第に俺の胸に「絶望」という言葉が湧いてきた。 コンビニ強盗の容疑にとどまらず、ヤクの運び屋の嫌疑もかけられた。それは警察にしてみればでかいヤマのはずで、俺はおそらく徹底的に追及される。通りがかりの街で俺の潔白を証明してくれる人など居るわけがない。俺はどのくらいここに拘束されるのだろう。 今頃サンタは戻らない俺を心配しているだろう。まだあの食品店で待っているだろうか。それとも諦めて一人帰ってしまっただろうか。 サンタに会いたい。でも、もう二度と会えないかもしれない。一生ここから出られなかったら、サンタは新しいパートナーと組む事になるだろう。 そんなの、悲し過ぎる……。 「もう一度訊くぞ」 黙り続ける俺にじれて、刑事が身を乗り出してゆっくり言った。 「お前のボスの居所を教えろ。組織の名前もだ。アジトはどこだ? 他の仲間の数は? 居場所は? さあ、正直に言うんだ!」 「知らねぇって言ってんだろ! 俺は密売組織なんかじゃない! 強盗でもない! 俺はトナカイ。サンタクロースの相棒で運転手だ! クリスマスに子供たちにプレゼントを配る、それが俺たちの仕事だよ! あんただってガキの頃うちのサンタからオモチャを貰ってるはずだ!」 他に何と言えばいいというのか……。頭がイカレてるとしか思われないのはわかっている。しかしそれでも真実を、俺は言うしかなかった。 俺の言葉を刑事たちは挑発と受け取ったようだ。目の前の刑事が机を思い切り叩いた。バン! という大きな音に一瞬身体がすくむ。 「警察をナメるなよ、クソ野郎……」 刑事は殺気のこもった声で囁くと俺のジャケットの胸倉を掴んで引き寄せた。 「嘘つきは泥棒の始まりって言葉を知ってるか? つまり貴様は大泥棒だ。立派な犯罪者だ。そんな悪党はそれにふさわしいブタ箱に案内してやらなきゃな」 くっつきそうなほど顔を近付けられ、掴まれた襟が首を圧迫して息が苦しかった。 「俺は……俺たちは、犯罪者じゃねぇ……! 子供たちのヒーローだ……!」 「まだ言うか! 貴様のケツの穴から手を突っ込んでその嘘つきな舌を引っこ抜いてやる」 ──サンタ、助けて……。 シャン、シャン、シャン…… その時、外から不思議な音が聞こえてきた。俺の聴覚だからこそ捉えられた、鈴のようなかすかな音……。 俺は締め上げられた苦しさに息を詰まらせながらゆっくりと窓の方に顔を向け、聞き耳を立てる。静かな夜明けの空気を震わせ、その音は少しずつ大きくなってきた。 シャン、シャン、シャン、シャン 「何の音だ?」 その音は刑事たちの耳にも届いたようだ。謎の音の正体を確かめようと、一人が窓辺に近づきブラインドを上げた。俺の胸倉を掴んでいた刑事も俺を放し窓辺に寄る。 「どこかで鈴を鳴らしてるのかな」 ……いや、あれは鈴じゃない。俺にはそれが何なのかはっきりわかっていた。自分の愛車の、あの独特なエンジン音を聞き間違えるはずがない。 「何だ、あれは」 刑事が空の一点を指差す。夜が明けたばかりの青白い空に奇妙な飛行物体。もっとよく見ようと窓が開けられる。 シャン、シャン、シャン、シャン! 「まさか……信じられん。バイクが……バイクが空を飛んでいる!」 思わず俺も窓辺に駆け寄り、刑事たちと並んで窓から身を乗り出す。 「こっちに来るぞ!」 はっきり目視できるほど接近した赤いエアバイクがこの窓目がけて真っ直ぐ飛んできた。昇ったばかりの太陽に照らされた長い金髪、地味な黒いブルゾン、その運転手は……。 「サンタ!」 俺のバイクにまたがるサンタクロースを見る日が来るとは思ってもみなかった。サイドカーに積んだ筒状のモノは何だろう。そして、二人の刑事は俺とは別な意味で驚いて声も出せないでいる。無理もない。空飛ぶバイクだなんて、UFOを目撃するのと同じくらい衝撃的だ。 二階の高さまで下降しホバリングするバイクは不安定に揺れている。 ──あぁ、へったくそ……。 すると、突然エンストを起こし、バイクは真下に落ちた。不幸な事にそれはちょうど駐車していたパトカーの真上だった。 「あああああああ!」 刑事たちが上げた悲鳴とパトカーの回転灯が粉砕される音がシンクロする。サイドカー付きチョッパーバイクの重量に耐えきれなかったパトカーの屋根がぺしゃんこになった。 パトカー1台潰したバイクは何事もなかったように再び浮上し、次の瞬間この窓に向かって猛突進してきた。 「な、何をする!」 「危ない!」 「え、うっそ!」 開け放たれた窓からけたたましい破壊音をたて、ガラスと窓枠と壁の一部をぶっ壊してバイクが突入した。 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」 間一髪で四方に飛び退き床を転がる俺と刑事たち。 「トナカイ! 無事か!」 「サンタぁ〜!」 俺の無事を確認したサンタは床に転がった刑事たちに怒りの目を向けた。 「よくもうちのトナカイを……」 「何者だ!」 「誰か来てくれ!」 二人の刑事は起き上がって上着の内側に手を入れ、銃を抜こうとする。しかし、それより早くサンタが腰の銃を抜いていた。 パシュッ! パシュッ! ブローニングから放たれた二発の催眠弾は刑事たちの鼻先で弾け、その煙を吸い込んだ二人は声もなくその場に倒れた。すぐにいびきが上がる。 それに安堵する事なく、即座にサンタはサイドカーに積んであったバズーカを担いで部屋を出た。 ──戦争始める気かよっ! 内心でツッコミを入れつつ慌てて俺も部屋を出ると、騒ぎに驚いた署員たちが束になって階段を上がってくるところだった。 「凄い音がしたぞ!」 「何があった!」 サンタが階段の踊り場に片膝をついて跪き、一階を見下ろす形でバズーカを構えた。 「後ろから離れろ」 サンタの警告に慌てて飛び退くと同時に砲弾が発射された。バズーカの後方爆風で真後ろの窓が吹っ飛ぶ。 砲弾は煙を上げながら一階フロアに着弾した。その途端砲弾が解け始め、もうもうと煙が発生する。それはあっという間に建物全体に充満していき、煙を吸い込んだ署員たちがバタバタと倒れていく。すぐにあちこちから寝息が聞こえてきた。 ようやく俺たちはホッと一息ついた。煙を吸い込んだ人々が目覚めた時、俺とサンタに関する記憶はすべてなくなっているはずだ。コンビニ強盗容疑で黒ずくめの男を連行した事も、空飛ぶバイクが窓をぶち破って飛び込んできた事も、すべて記憶から消される。 俺たちの世界には掟がある。 『決して人間にサンタクロースの姿を見られてはならない』 めでたしめでたし、ではあるけれど……。 「それにしても、派手にやったなぁ」 粉々に砕け散った窓ガラス。累々と横たわる、屍ならぬ眠る人々……。そんな光景を見渡して俺は苦笑ってサンタを見る。 彼は腕組みをしてうーんと考え込み……。 「サンタクロースをクビになるかもな……」 そんな風に呟いた。 ──笑えない冗談はやめてください。※ ※ ※ 雪に閉ざされたサンタの国は今日も雪がしんしんと降り続いている。外は凍てつく寒さでも家の中は暖かだ。 あの後、本部に戻ってから大変だった。 事態は収拾されたけど、サンタクロースが職務から逸脱し下界に混乱を巻き起こした事で俺とサンタは本部からこってりしぼられた。 この国の最高責任者はサンタだ。唯一無二のサンタクロースがクビになる事はないけど、組織である以上、各部署の担当者から叱られる時は叱られる。結局、今回の騒ぎに関してサンタは始末書を書かされた。一番エライ立場なのに。 トラブルのタネを蒔いたのは俺だからこんな事言っちゃ悪いけど、始末書を書くサンタの背中が何だかしょんぼりしていて妙に可笑しかった。 赤々と燃える暖炉の前にクッションを山積みにし、俺は寝そべってニュースを見ていた。 「例の警察署の件、やっぱニュースにならないね」 ホッとしつつもどこか拍子抜けした気持ちでテレビを消す。 「ニュースにしようがないだろうな。パトカー1台潰されて窓ガラスが吹き飛んだ惨状なのに、それを覚えてる者は誰も居ないんだから。どうやって捜査したらいいかわからないだろう」 俺の傍らでサンタもクッションにもたれ、新聞をめくりながらそう言った。 ここ数日ニュースをチェックしていたが、警察署の謎の集団睡眠の事件はテレビで取り上げられる事はなかった。新聞の片隅に『警察署の窓、何者かによって割られる』という小さな記事が出ただけだ。 仮に催眠ガスを吸わずに記憶を失わなかった者が居たとして、誰があんな出来事を信じるだろうか。空飛ぶバイク、吸い込むと記憶を失う謎のガス。そんなSF映画のような事を信じる者が居ても当局は世間に公表するわけにはいかないだろう。 ところで、例のコンビニ強盗はその後捕まったらしい。新聞に顔写真付きの小さな記事を見つけた時は胸がスッとした。こうでなきゃ困る。そもそも今回の騒動は全部コイツのせいなんだから。 警察から俺に関する記憶は消えたからもう関係ないけど、真犯人が捕まらないと俺が犯人のままって気がして気分が悪い。これで正真正銘無罪になってようやく胸のモヤモヤが晴れた。 「でもさ、警察の人たちに悪い事したな。壊した物、弁償してあげるわけにもいかないし」 「そうは言っても仕方ないだろう。我々の事を知られた以上ああするしかなかったんだ」 サンタの言う事は尤もだ。それに本当のサンタクロースは人間が作り上げたイメージとはまったく違って、愛想はないし平気な顔してバズーカぶっ放すし。トナカイだってこんなチンピラ風情だ。そんな夢をぶち壊すような事実、知らない方が幸せだろう。 「それより、お前が無事でよかった」 「サンタ……」 思いもよらないサンタのそんな一言で、俺の心臓は簡単に跳ね上がった。 後で聞いた話だけど、俺が警察に捕まったと知ったサンタは本部に戻り、バズーカと高濃度催眠ガスの砲弾をバイクに積んで倉庫番の制止を振りきって飛び出したという。 『よくもうちのトナカイを』 バイクで飛び込んできた時の静かにキレていたサンタの顔を思い出す。意外に直情的で、過激で、情に厚いサンタ。もしかしたら俺が思っている以上に俺は彼に大事に思われているのかもしれない。 俺は四つん這いでサンタに這い寄り、彼の膝にまたがった。 「俺のこと心配してくれた?」 「当たり前だろ。お前が居なかったら誰がバイクを運転するんだ」 素っ気ない言葉とは裏腹に、サンタの手は俺の頬を優しくなでる。 「たしかに、大事なバイクをあんたに任せてこれ以上キズを付けられちゃたまんないな」 俺もずけずけと言い返しながら彼の手のひらに口づけた。 「俺、ほんとドジだし、あんたが始末書を書くハメになったのだってもともとは俺のせいだし、いっつも失敗してあんたの足引っ張っちゃうけど、こんなバカなトナカイでもいいの……?」 「さあ、どうかなぁ……」 俺に乗っかられたサンタは腕を伸ばして俺のシャツのボタンを外しながら言う。 「自分で確かめてみろよ」 滅多に笑わないサンタクロースが見た事もないような可愛い顔で笑った。 「オーケー。来年のクリスマスも再来年のクリスマスもお前が必要だ、って言わせてみせるさ」 そして、俺たちはクスクス笑いながらお互いの服を脱がせ合い、何度も小さくキスをしてクッションの山に沈んだ。 俺たちはヒーロー。人々に夢と希望と愛とオモチャを届ける最強の配達屋コンビ。そんなヒーローもどこかで誰かとこうして愛を確かめ合う。 ──でも、それは子供たちには内緒の話。fin
2010年のクリスマスSS『Night Runners』の続編になります。外見も中身も泥棒と紙一重なアクセル・トナカイとハリー・サンタ。この二人の天敵は警察らしいw
相変わらずななめに突き進むクリスマス話ですみません(^^;
[2017年 1月 7日]