トナカイ・アクセルは人間の姿だと思っててください(笑)ケモノ×人間も美味ですが(オイ・・・)
赤いエアバイクは「うる☆」の弁天の愛車に憧れていたので(照)
そんなこんなでメリー・クリスマス!
[2010年 12月 24日]
『お前、私の足になれ』 ある日男が俺を指差してこう言った。 見た事もないような綺麗な男だった。 彼が誰なのか知らないまま、俺は男に見惚れながら黙って頷いた。 トナカイなんて掃いて捨てるほど居るのに、なんで彼が俺を選んだのか今でもわからない。Night Runners ___________________________________________________________________ヘルメット越しに風の唸りが聞こえる。 それとシャンシャンという変わったエンジン音。それだけ。 静かな夜に思えても、それはこうして高みから眺めているからであって、実際はまだまだ喧騒に包まれているであろう、街の中は。 「次、どこー?」 問えばサイドカーの男があそこ、と指を差す。 俺はその緑色の屋根目がけてハンドルをきった。 今夜の主役は俺じゃない。俺はただの運転手。 隣の男をちらと盗み見る。 金髪碧眼、スラリとした身体つき、顔は申し分のない色男。 目立ってしょうがない外見のかわりに着ている服は黒のブルゾンと、かなり地味だ。 最初、既存のイメージと違って驚く俺に彼が言った。 『人に見られちゃマズイのにあんな目立つ色の服着るわけないだろ』 あれは某炭酸飲料メーカーのシンボルカラーなんだ、と教えられて目からウロコ。 赤い服は儀式用だかイベント用だかって話に、ああなるほどねと納得する。 たしかに黒い服じゃビジュアル的には盛り上がらない。 彼が中身の減った袋の中をさぐってブツを確認する。 キャラとしてはだいぶイメージが違うけど、プレゼントを入れた袋はやっぱり白くてでかい布製ってところが可笑しい。 「よし、あと二件だ。さっさと終わらせて帰るぞ」 「りょーかい、サンタ!」 そう、主役はこの男。 今夜地球上の誰よりも働き者の、世界的に有名な配達屋。 第一エンジン停止、第二エンジン逆噴射。 俺の赤いエアバイクは屋根の上にふわりと着地した。 我ながら毎度見事なタッチダウン。 トナカイが操るのはダサい橇なんかじゃない。昔はどうだか知らないけど。 俺の愛車はチョッパータイプのハイテクマシンだ。 ただ、バイクはなんで派手な赤なのか訊いたらたんなるさび止め塗料がたまたま赤だっただけ、と言われた時には訊いた事を後悔したけど。 子供部屋ってのはだいたいがニ階だ。 俺たちは雨どいを伝ってニ階のベランダに辿り着く。デブのじいさんには出来ない芸当だ。 部屋の中を覗き込むと、案の定5歳くらいの女の子が眠っている。 「かーわいいねぇ」 俺が鼻の下を伸ばしている間にサンタは腰のベルトから七つ道具を取り出す。 窓の鍵穴に、歯医者が使うような細い道具を二本挿し込み指先を少し動かすと、かちりと小さな音がした。 「アンタのピッキング技術は泥棒も顔負けだね」 「褒めてるつもりか?それ」 そっと窓を開けて部屋の中に忍び込む。 俺は外を見張り自慢の聴覚で他の足音がしないか注意を払う。その間サンタは子供のベッドに近付いて枕元にクマのぬいぐるみを置いた。 天使のような子供の寝顔に、この男も天使みたいに微笑んだ。 ああ、そんな顔のせいなんだよ。俺がこれを仕事って割り切らないのは。 サンタは滅多に笑わない男だった。 情が薄いわけじゃない。笑う理由がないのかもしれない。 25日の朝、子供たちは枕元のオモチャを見つけてはちきれんばかりの笑顔になるというのに。 絵本の中のサンタクロースの姿に大人も子供も微笑むというのに。 世界中の誰もが彼の事が好きなのに。 けど、誰も彼を笑顔にさせない。 一年に一度だけ、邪気のない子供の寝顔にだけ彼は微笑む。 俺はその顔を見たくて……。 ただただ、笑顔が見たくて毎年彼のためにエアバイクを駆る。 最後の家は平屋だった。 当然子供部屋も一階だ。 俺たちは裏庭に下り立ち、バイクを庭木の中に隠した。 子供部屋を覗くと男の子がぐっすり眠っている。それはいいんだが……。 「ありゃ、中に犬が居るよ。どーする?」 気難しそうなヨークシャーテリア。しかもこっちを見て、あきらかに吠える気まんまんの顔だ。歯をむき出しやがった。 見事な早業で鍵を開けたサンタはひとつ大きなため息をつく。 「……しかたないな」 ついに彼は腰のブローニングに手をかけた。もちろんサイレンサー付きだ。 犬に銃口を向けると間髪入れずに引き金を引いた。 パシュッ! 弾丸は犬の鼻先で弾けて薄い煙を上げる。それを吸い込んだ犬はその場に倒れ込み、やがていびきをかきはじめた。 つまり催眠弾だ。 この世界の鉄則その一。決して人間に姿を見られてはならない。 相手に見つかった時やむなくこの銃を使う。目が覚めた時には自分が見たものの事はすっかり忘れているはずだ。犬は喋らないが吠えられるのはカンベンだ。 サンタは子供の枕元にロボットのオモチャを置いた。そしてまたあの優しい微笑み。 俺は、今夜最後の蕩けるような笑顔を目に焼き付ける。 今夜最後……。つまり今年最後だという事。またしばらくサンタの笑顔は見られない。 名残り惜しくて、目に焼き付ける事に気を取られて、俺は気を抜いてしまったんだ。 「そこに居るのは誰だ!」 ちょうど窓から外に出たところ、いきなりライトで照らされた。 突然の眩しさに思わず手をかざして目を細める。 「お前たち、そこで何をしている!」 光の向こうに見えたのは制服を着た男が二人。 「やっべ、おまわり!」 運悪く住宅地をパトロールしていた警官に見つかってしまった。 次の瞬間、俺とサンタは駈け出した。 隠してあったバイクを木々の中から引っ張り出し庭を抜けて公道に出る。 「待て!待たんか!」 誰が待つか! あの状況は誰がどう見ても窃盗に入ったチンピラ二人組だ。自慢じゃないが俺もサンタも堅気には見えない。ましてや、プレゼントを届けに来たサンタクロースだなどと、誰が思うだろう。思われても困るけど。 サンタがサイドカーに乗り込むのを見届けバイクに跨った。 エンジンをかけた。……つもりだった。 「あれ?」 セルを回してもエンジンはうんともすんともいわない。キックしても結果は同じで……。 「急げ!何をしている!」 「どうやら、バッテリー?」 振り返ると警官はパトカーの無線を手に取ったところだった。まずい……署に連絡を入れるつもりだ。 サンタは立ち上がり、ちっ!と舌打ちをしてブローニングに手を伸ばした。警官が武器の所持を見とめてピストルを抜く。だがサンタが引き金を引く方が早かった。 放たれた二発の催眠弾は彼らの鼻先で炸裂し、二人の警官は声もなく倒れた。 「一晩に三発も使うなんて初めてだぞ」 危機は回避出来たけどバイクが動かないのは変わらない。 「よし、私が押す」 それがサンタの出した手段。 俺が跨ってサンタが後ろから押す。 ギアを入れてクラッチを切る。後ろから押されて勢いがつき出した。 「あ〜、くっそー!なんだってこんな目にー!」 「お前が言うな!お前が!」 俺のぼやきに、サンタが後ろで息を切らし怒鳴った。 「わーってるよ!悪かったって!」 いい手ごたえを感じる。クラッチを離してアクセルを開いた。 シャンシャンという独特のエンジン音。 「サンタ!乗って!」 サイドカーにサンタが納まるとエアバイクは夜空に上昇していった。 「ハイテクマシンだと!?」 「なにー!?」 「押しがけとは情けないな!」 「風の音で聞こえないよー!」 「この、ポンコツ!」 「聞こえませーん!」 サンタに罵倒されようが、結果オーライってやつさ! 教会の屋根の上。 大の男二人が膝を抱えて並んで座っていた。 「このドジ!」 「はい……」 「お前の商売道具だろ!整備不行き届きだぞ!」 「ごめんって〜」 バッテリーは最後までもたなかった。たぶんダイナモが逝った。騙し騙しでも、もう絶対動かない。 上空でエンジンが怪しげな音をたて、俺たちは教会の屋根に不時着したのだった。 とりあえずサンタが本部に連絡。本部から搬送車が来るのを、俺たちは寒空の中待っているわけだ。 一年に一度の大仕事なのに。 バイクのコンディションを完璧にしておくのがトナカイの役目なのに。 最後の最後でこんな大きなドジ踏んで、俺はクビになるかもしれない。 無言で煙草を吸うサンタの横顔を見ながら思う。 いつまでもずっと一緒に走っていたかった。 滅多に笑わないこの人が、いつか俺に微笑んでくれる事を祈ってた。 もうお払い箱になるかも、なんて考えたら悲しくて堪らない。 ため息をついて、でもサンタにつられて煙草が吸いたくなった。 ポケットに手を入れると、指に触れる煙草とは別の柔らかな感触。 俺は “それ”の存在を思い出した。 「あのさ、これ……」 振り返ったサンタに赤いリボンの包みを差し出した。 「本当は帰ってから渡そうと思っていたんだけど」 いつも人にプレゼントを配ってばかりいるサンタクロースは、自分がプレゼントを貰った事なんかあるんだろうか、と考えていた。 「私にか?」 サンタは受け取った包みをほどく。 「手袋……」 黒いブルゾンに合うようにと選んだ、黒い毛糸の手袋。 茫然とした顔で彼はそれを手にはめた。 「あんたさ、いっつも荒れた手してたから……。安物だけど、あったかいよ」 「本当だ……あったかい」 手袋をはめた手を見つめながらサンタがぽつりと言った。 「あのさ、サンタ。俺さ……」 クビかなあ、と言葉に出せば彼は思いきり呆れた顔をした。 「あほ!そんな簡単にクビにしてたまるか!めんどくさい」 めんどくさいというのは、後釜を探さなければならないとか、また一から仕事を教えなければならないとか、たぶんそういう事なんだろう。でも……。 「こんな優しいトナカイ、他にどこに居るってんだ」 サンタが言ったその言葉に、俺はびっくりしてしまった。 「プレゼントって、貰うと嬉しいものなんだな。初めて知った」 「俺、あんたが好きなんだ……」 「それも今知った」 間近にサンタの顔があって、俺に優しく微笑んでいた。 ひとつだけ、どうしても今訊いてみたい事がある。 「なんで俺をパートナーに選んでくれたの?」 「……そりゃお前」 サンタはずいっと顔を寄せて―― 「間抜けヅラが可愛いトナカイだったからだ」 なんて、そんなふうに言う。 顔を見合わせたまま沈黙が続き、やがて俺たちは同時に吹き出した。 「メリークリスマス、トナカイ」 「メリークリスマス、サンタクロース」 口早に囁き合ったあと、一瞬の間も待ちきれなくて俺たちは唇を重ねた。
fin
トナカイ・アクセルは人間の姿だと思っててください(笑)ケモノ×人間も美味ですが(オイ・・・)
赤いエアバイクは「うる☆」の弁天の愛車に憧れていたので(照)
そんなこんなでメリー・クリスマス!
[2010年 12月 24日]