カウンター020202のリクエストでした。リクエスト内容は『アクセルとハリーで学パラ。重い物を背負っていないハリーに自由に恋愛を。但し年下攻めは譲れない』です。ハリーの恋愛というよりアクセルの奮闘物語になってしまいました(汗)
リクエストくださった方、そして長いお話を呼んでくださった方、ありがとうございました。
舞台になる国は特定していないため、高校も大学の制度も完全に捏造です。
[2013年 10月 6日]
世の中は、君の理解する以上に栄光に満ちている。 by.G・K・チェスタートン 大学が春休みに入り、俺は1ヶ月半ぶりに実家のある街に帰ってきた。 地元の繁華街をぶらつきながら、相変わらず平凡で退屈で平和な街の様子にホッとする。尤も、1〜2ヶ月に一度は帰省しているんだから、そんな短い間で街の変化なんてそうそうあるものでもない。 いつもは週末に帰省して実家でのんびりし、地元の友達と会い、レディ・ジョーから食料を山ほど持たされて日曜の夜には戻る。去年の秋頃から俺は学生寮を出て学校の近くに部屋を借りた。生まれて初めての自炊生活に、実家からの食料援助は本当にありがたかった。 『まるで嫁に出した娘が里帰りしてるみたいだよ』 俺に持たせる野菜だとか肉だとかをより分けながら、レディ・ジョーは毎回そんな憎まれ口を言ってくる。俺が強請っているわけではないが、きっと俺のためにキープしてあったのだろう。張り切って作り置きの料理を小分けする姿を見て、これも子を思う親の愛なのだろうと、俺はその憎まれ口を苦笑って受けている。 レディ・ジョーは俺が居なくても相変わらずパワフルで忙しい。でも、どんなに弱音を吐かない強気なオカマでも確実に年をとっていく。一緒に暮らしていた時は喧嘩が多かったけど、離れてみればたった一人の母親をいつも気にかけている自分が居た。 勿論、そんな殊勝な思いは顔には出さない。余計心配されるか気味悪がられるかがオチだ。俺とレディ・ジョーは仲良く喧嘩するくらいが丁度いいんだと思っている。 5階建て商業ビルに着き、1階に入っている店のガラス戸を開けると鳥の鳴き声に迎えられた。ドアの開閉に反応して鳴るドアチャイムが鳥の声とは実にこの店らしい。吹き抜けの天井からは相変わらず鳥のモールがぶら下がってふわふわ飛んでいた。 「いらっしゃい、アクセル」 カウンターからロバートさんが笑顔で声をかけてきた。 「久し……でもないか。ロバートさん、休みの度に家の手伝い大変だね」 何かと忙しいはずのロバートさんは俺が来る度店に出ていて、可笑しいの半分、同情半分で、でもやっぱり笑ってしまった。 「そうなんですよ。私も来月から社会人だというのに、このまま此処でタダ働きさせられそうで……。アクセルからも店長に言ってやってくださいよ」 ロバートさんは苦笑して後方の厨房をくいっと指差すと、ガラスの向こうで仕込み中の店長がニコニコ笑って手を振ってきた。 ロバートさんは先週大学を卒業し、この春からシステムエンジニアとして就職が決まっている。以前店長が息子は店を継がないと言っていたが、案外ロバートさんはこのままずるずると実家の手伝いをさせられるのかもしれない。 店長はまだ若く元気だし、ロバートさんも当分こうしてコーヒーを淹れるとなると『バードガーデン』は変わらず憩いのカフェで続きそうで、俺としては嬉しいかぎりだ。 「友達、来てますよ」 ロバートさんに促されて店の奥に目をやれば、店内のオシャレな雰囲気をぶち壊す無粋な野郎が一人。 「よー!」 「久しぶりだな、ルカ。生きてたか?」 「まあな、お前こそ音沙汰なしで落第でもしたかと思ってたぜ」 この街の医大に入ったルカと会うのは半年ぶりだ。電話やメールで連絡は取り合っていたが、実際会うとなるとお互いの都合がなかなかつかなかった。 「いらっしゃい……ませ、アクセル先輩」 俺がルカの向かいに座ったところで店員がオーダーを取りに来た。 「おー、元気にやってる?もう慣れたか?」 「はい、何とか。たまにはドジ踏みますけど」 彼は俺の大学の後輩だ。今年此処でのバイトを始めたばかりで、紹介したのは勿論俺だ。今『バードガーデン』は大学生の彼と高校生の二人がバイトしている。 俺はとりあえずアーモンド・オレを注文した。 「いやー、お前が“先輩”とか言われる日が来るとはねえ……」 後輩が去るとルカは、信じられないという顔をして大袈裟に頭を振った。 「3年なんだから当たり前だっつの。そういうお前も3年だろ」 俺がN大に合格した時、一番喜んでくれたのはルカだった。いつもの皮肉屋の顔を取り繕う事も忘れ、ガッツポーズで「よっしゃー!」と叫んでいたルカ。普段は辛辣な事をずけずけ言う奴だけど、こんな所がこの男の素の部分なんだと思う。 「アクセルくんが先輩って言われるのもピンとこないけど、経済学部ってのも意外だぜ。経済なんか何処が面白いんだよ」 「俺たちは経済の中で生きてんだよ。此処でこうして美味いコーヒーを飲むのも経済、お前が最新の携帯使って女をくどくのも経済だ」 俺がこの学科を選んだのは『バードガーデン』でバイトをした日々の経験が影響しているのだと思う。店長から聞く話はいつも興味深くて、俺はこの小さなカフェを通して世の中の成り立ちや社会の循環ってものをもっと知りたくなったんだ。 「それはそうとお前、春休み中大学病院の実地研修やるんだって?」 前にルカが電話でちらっと言ってた話を思い出した。 「おう!もうやってるぜ。まあ、医者の後を金魚のフンみたいにくっついて歩いて、説明聞いたり簡単な作業手伝ったりだけどな。今行ってるのは小児科だけどよ、俺、将来は小児科に決めたわ」 小児科?ルカは前に産婦人科の医者になるって息巻いてなかったか?俺がそこを突っ込むと、ルカは大真面目な顔で言う。 「だってな、考えてみろよ。患者はどうせ旦那の女だし、それに仕事で日頃からそんなもの見てたらセックスのたんびに思い出して夢も希望もなくなるだろうが」 大笑いしてしまった。こいつは女性にとって害虫みたいな男だが、大学生になっても小学生の頃と同じレベルで、この馬鹿さ加減にむしろホッとする。 「子供は面白れーぞ?発想が突拍子もなくて退屈しないし、素直だし。俺に『せんせい』って尊敬の眼差し向けてくんのよ?若くてカッコいい俺サマは女の子にモテモテ。そんなわけで、小児科医決定だ」 意外だけどルカは子供好きなのかもしれない。こんな事を言うと奴は反発して『ガキよりおねーちゃんの方がいいに決まってるだろ!』と言いそうだが、楽しそうに子供の話をするルカを見ていると、案外こいつはいい小児科医になる気がした。 注文したアーモンド・オレが運ばれてきたところでルカが言った。 「ところで、キャンディの話聞いてる?」 ルカが振ってきた話に俺は笑いが込み上げてきた。自分への可笑しさでだ。 「聞いているどころか……」 俺は笑いながら、ショルダーバッグから此処に来る前本屋で買った雑誌を出した。 「おーっ!今月号もう出てんの!?」 ルカが目の色を変えて手に取った雑誌は女の子向けのファッション雑誌だ。『夏を先取り!小悪魔ガールの完璧コーデ』とタイトルが打たれた特集ページには、流行りのファッションに身を包んだキャンディがポーズをとっていた。 俺とルカは頭を寄せ合って雑誌に見入る。 「スゲー!今月5ページもあるじゃん!」 「可愛いよな、あいつ。ファッションリーダーになっちまうのも頷ける」 「実際、女より可愛いもんなぁ」 キャンディは大学に通いながら去年からモデルの仕事をしていた。最初は単なる読者モデルだったが、即座に読者から反響があり今では売れっ子モデルになっている。華奢で童顔でキュートだが実は男というキャンディは、その意外性も相まって“性を超えたファッション・カリスマ”と、とくに10代の少女たちから圧倒的支持を得た。 イキイキとモデルをやるキャンディの姿を見るのが嬉しくて、俺は毎月この雑誌を買っている。10代の女の子が買うファッション雑誌をこの俺が買うようになるとは……。やたらキラキラした表紙をレジに持って行くのにかなりの勇気を要した。エロ本買う方がずっとマシだ。とにかく、緊張と恥ずかしさで本屋を出る頃には俺はいつも汗だくだった。 そんな健気でミーハーな自分が可笑しくて、我ながら笑ってしまう。 「いずれ表紙を飾るようになるだろうな。もしかしたら、モデルを足がかりに女優になるとかCDデビューとかするかも……」 キャンディのこのフォトジェニックぶりを考えるなら大いにあり得そうだ。だがルカは手をヒラヒラ振って否定した。 「先週、偶然駅でキャンディに会ってさ、しばらく立ち話した時、芸能界にデビューするのかって訊いたら……」 ルカはそこでいったん言葉を切り、キャンディの声色を真似して裏声で言った。 「『やだ、するわけないじゃない!あたしの夢はお嫁さんになる事なんだから!モデルはただのアルバイトよ!』……だとさ」 爆笑した。 「ずっと前に商社に入って金持ちでイケメンの男捕まえるって言ってたけど、やっぱ本気だったんだな」 「あいつには二言ってものがないな。何だかんだで男らしい奴だわ」 ファッション業界で成功するチャンスを蹴り飛ばして、我が道を往くところがキャンディらしい。勿体ないと思う反面、昔と少しも変わらない潔さに嬉しくなった。 「そういやキャンディ、ハリー先輩の事びっくりしてたな。駅で『きゃー!ホント!』ってでかい声で叫ばれて焦ったぞ」 ハリー先輩の事──。そういえば、キャンディにはなかなか連絡とれなくて言いそびれていたっけ……。 「俺も最初聞いた時びっくりしたぜ。まさかH大卒業後、N大に学士編入してくるとはなぁ。何処までお勉強が好きなんだよ、あの人は」 「こっちの環境科学の研究室に入るんだとさ。N大の環境科学は多くの実績があるからH大での研究を生かせるんだとか」 その話をハリー先輩から聞いたのは1年前だ。卒業したら帰ってくると、たしかに彼は言ったけど、あと数年はイギリスに留まるんだと思っていた。学士編入学でハリー先輩は3年生としてN大に入ってくる事になる。俺と同級生だなんて何だか変な気分だ。 「いつ帰ってくんの、ハリー先輩」 「来月の中頃になるって手紙に書いてあった」 「はあ?手紙!?お前ら手紙でやり取りしてんの?せめてメールにしろよな。まったく、相変わらずズレてるっつーか変わってる人だな、あの先輩」 ルカは思いきり馬鹿にしたような顔をする。 「……まあ、ズレてる人ってのは俺も同感だけどな」 メールは好きじゃないんだそうだ。急ぎの用件は電話をくれるし、近況は手紙で知らせてくるから別に不都合はない。それにハリー先輩は手紙に写真を入れてくれる事があった。メールの画像添付とは違い、印画紙にプリントされた写真は手で触れられ“物”として残るのが嬉しい。 「で?同棲するんだろ?」 「同棲じゃなくて同居!」 決してこいつが考えているようなラブラブな成り行きではない。もともとあの街にはハリー先輩が住む所はなかったし、俺も定員いっぱいの学生寮をそろそろ出て後輩たちに明け渡さなければならない。どうせ同じ大学に通うんだからあらためて近場で部屋をシェアしよう、って話になったんだ。 ハリー先輩と一緒に暮したらちょっと勉強を見てもらえるかな、と期待している。……いや、正直に言うと下心も少しは……少しどころか、大いにある。かなりある。 「とにかく、一緒に住むんだろ?新居、もう落ち着いたのか?」 「まあ、家電も揃ったし俺一人ならいいんだけど……」 実は数日前、ロンドンからハリー先輩の荷物が届いた。「荷物を送ったから置いといてくれ」とは事前に聞かされていたが、段ボールに10箱分の本とは思ってもいなかった。しかもそれで全部ではないらしく、「残りの本は後日また」とかさらりと言われて俺は頭を抱えた。 「床、抜けるぞ……?」 「メゾネットの1階だけど、ボロ屋だし床の補強はしなきゃならないかもなぁ」 あの膨大な本を収納出来る本棚なんて売っているんだろうか。もしかしたら特注? 「あ、そういやソファもないな。待てよ?食卓テーブルもないぞ。俺一人が選んで買うより、ハリー先輩が帰ってきてから一緒に選んだ方がいいかな……」 「新婚夫婦かよ!もう好きにしろ!馬鹿馬鹿しくて付き合ってられねえ!」 ついにルカがキレた。 「……まあ、お前の一途さっつーかしぶとさには負けたぜ。あとは仲良くやれよ?親友」 今日はこれから大学病院に戻って研修の準備だというルカとは此処で別れる事になった。 会計を済ませて『バードガーデン』を出たところで奴が言う。 「ハリー先輩が帰ってきたら、今度キャンディも交えて4人でメシでも食おうぜ」 「いいな、ハリー先輩も喜びそうだ。じゃ、キャンディには俺から電話しとく。俺の口からいろいろ報告したいしさ」 そして俺たちは「またな」と手を振って別れた。 「……さてと」 『バードガーデン』の前に佇んでおれは空を見上げる。天気はいいし暗くなるまでまだ時間がある。せっかくオシャレな店が建ち並ぶ街に来ているんだから、お気に入りのセレクトショップを覗いていこうかと考えた。 ハリー先輩は大量の本を送ってきたが、身の回りの物はほとんど持たずに帰って来ると言っていた。ならば、コーヒーカップくらいは買って用意しておこうか。新婚夫婦じゃないけれど、俺たちは同等で二人の住み家なんだから、家具はやはり二人で選びたい。 俺はバッグから昨日届いたばかりの手紙を取り出した。ハリー先輩からの手紙はたぶんこれが最後になるはずだ。手紙には写真が同封されていた。 H大の研究室で撮ったんだろう、白衣を着た6名の仲間たちに囲まれたハリー先輩。人種も年齢も性別もバラバラな学生たち。名門大で難しい研究をしている気難しい人たちと思いきや、皆くったくのない笑顔で陽気なポーズをとっていた。 ──ああ、帰って来るんだなぁ……。 地下鉄駅で出会って7年。 一緒に過ごした時間は1年。 離れ離れになって4年。 ガキの頃の淡い初恋は色あせる暇もなく、その間ずっとただ一人の人を追ってきた。時にがむしゃらに、時にとぼとぼと。追い付きそうだと思ってもハリー先輩はいつも俺の前に居て、まるで輪唱曲を奏でるように歩いてきた俺たち。 そして、今俺は20歳、ハリー先輩は22歳。 ようやく俺たちは肩を並べて、此処から本当のスタートを切るのかもしれない。 写真の中のハリー先輩は、仲間たちの真ん中で笑っていた。終
カウンター020202のリクエストでした。リクエスト内容は『アクセルとハリーで学パラ。重い物を背負っていないハリーに自由に恋愛を。但し年下攻めは譲れない』です。ハリーの恋愛というよりアクセルの奮闘物語になってしまいました(汗)
リクエストくださった方、そして長いお話を呼んでくださった方、ありがとうございました。
舞台になる国は特定していないため、高校も大学の制度も完全に捏造です。
[2013年 10月 6日]