12月24日のパリは昼間から街全体がクリスマスツリーのように華やいでいた。 ブランドショップが立ち並ぶ通りで買い物を楽しむ観光客、慌ててプレゼントを買い求める市民、パーティのあれこれを買い込み山のような荷物を抱える人々。 アクセルも今夜ネオ・トリアノンで開かれるクリスマスパーティの買い物で走り回っていた。朝から市場とネオ・トリアノンの間を何度往復しただろう。料理用食材の買い物は午前中に済ませ、今は常連客たちに配るプレゼントとカクテル用品を手に抱えていた。 「あー、疲れた……!」 朝から休みなくずっと歩き回っていたのだ。何より煙草が吸いたかった。 カフェはどこも混み合っている。時刻は午後4時。ちょうど買い物疲れした人々がコーヒーで一息つきたい時間帯だ。アクセルは運よくテラス席に空いているテーブルを見つけ、そこに座るとすぐにウエイターが来た。 「エスプレッソ」 注文を告げ、ウエイターが去るとアクセルはすぐ煙草に火を点けた。そしていつものようにポケットから携帯を取り出す。カフェに入るとすぐ携帯に手を伸ばすのはもう癖になっていた。 「ハリー今頃何してるかな……」 ハリーに電話してみようとアクセルは指を伸ばした。……が、画面は真っ暗だった。 「げっ! 電池が……」 電源スイッチを押すも反応はない。どうやら完全に電池切れのようだ。昨日から電池残量が少なかった。パーティの準備に追われているうち充電する事を忘れ、結局そのままだ。いつの間にか電池は完全にこと切れたらしい。 ハリーの声を聞くのは夜まで我慢するしかない。 「あーあ、ついてねぇな」 ため息をついているとコーヒーが運ばれて来た。携帯を使えないとどうにも手持無沙汰である。仕方なく周りを見回していると、すぐ隣の席の老人に目がとまった。 年齢は70代後半とおぼしき男性。人のよさそうな丸顔に少々伸びすぎの無精髭、服装はお世辞にもきれいとは言えず、どこかくたびれた印象だった。 老人はねずみ色のコートのポケットに手を入れ煙草を取り出したが、生憎それは空で彼は小さくため息をついた。 「じいちゃん、これでも良かったら吸う?」 アクセルは思わず自分の煙草を差し出した。カフェではテラス席のみ喫煙できる。この老人は自分と同様に煙草が吸いたかったからこそここを選んだのだろう。わざわざ高めの席に座ったのに、肝心の煙草が切れていたとは、さぞがっかりしただろう。アクセルは同じ喫煙者として気の毒になってしまった。 一瞬驚いた顔をした老人は、すぐさま満面の笑顔になって煙草を受け取った。 「ありがとう、おにいちゃん。遠慮なく頂くよ」 その笑顔は人懐っこく、可愛いおじいちゃんという感じで、アクセルもつられて笑う。 「あれ、何も注文してねえの?」 老人はアクセルが来る前からここに座っているのにテーブルの上には何もない。 「何度も呼んでるけど誰も来てくれなくてな。やっとあの女の人に言ったけどまだ持ってきてくれないよ。さては金を持ってないと思われたかな?」 そう言って老人は笑ったが、アクセルは顔をしかめた。 あの女の人──。老人が指差した方を見ると、まさにその女性店員と目が合った。手を上げると彼女はすぐさまアクセルの傍らにやって来た。 「教授、エスプレッソでいいですか?」 老人はアクセルの呼びかけに一瞬目を丸くしたが、話を合わせてにこやかに頷いた。 「ああ、いいよ」 途端に店員の顔色が変わる。 「あ、学会が終わってお疲れでしょう? ミルクが入った方がいいですか?」 「そうだね、そうしよう」 アクセルが自分史上あり得ないくらいの丁寧な言葉遣いで老人の注文をまとめ、店員に「カフェ・ノワゼットひとつ」と告げる。店員は小さな声で復唱するとそそくさと店内に消えた。 彼女が去った方を見ながらアクセルは思う。あの女性店員は老人をホームレスと判断したのかもしれない。たしかに身なりが立派とは言えない。むしろ最近のホームレスの方がいい服を着ている。いずれにせよ彼女はこの老人を底辺の人種と見なしたのだろう。 パリは様々な人々がカフェに来る。ホームレスもコーヒーを飲みに来る。もちろん金を払ってだ。ほとんどのウエイターは分け隔てなく接するが、中には人種や見た目で差別する者も居るだろう。実際、自分がそういう場面に出くわしてしまうと「仕方ない」で済ませたくはなかった。 程なくして老人のテーブルにコーヒーが運ばれてきた。老人がにこやかに礼を言うと、女性店員は小さな声で「ごゆっくり」と言った。彼女は耳まで真っ赤だった。 アクセルが咄嗟にでっち上げた教授という肩書は効果てきめんだったらしい。教授といっても高いスーツを着ている紳士ばかりではない。身なりを構わない研究者も多い。そう思うとこの老人が本当にどこかの大学教授に見えてきて、アクセルは少し可笑しかった。 「まあ、パリには星の数ほどカフェがあるし、ウエイターの数はもっと多いじゃん? だから色んな店員も居るってわけさ。あまり気にしない方がいいよ」 「もちろんさ。私もパリは大好きだし気にしてないよ」 あの店員は顔を赤くしていた。自分の対応が恥ずかしい事だと、これで気付いて改めてくれたらそれで良いのだ、とアクセルは思う。 「じいちゃん、外国から来た人?」 老人のフランス語には少し北欧訛りがある。昔付き合っていたスウェーデン人の彼女と発音が似ていた。スウェーデンか、もしくはフィンランド……。 「よくわかったね。フィンランド人さ。ちょっと仕事でね」 ほらこれ、と老人が足元のカバンを指差す。ジッパーが閉められていない口から覗くのはきちんと畳まれた赤い服。色と素材でそれが何なのかはすぐわかった。 「じいちゃんはサンタクロースなのか」 楽しそうな仕事にアクセルの顔がほころぶ。 「みんながイメージするサンタクロースはもっと腹が出て髭も立派だから、私はちょっと物足りないけどね。だから付け髭と腹巻で誤魔化す。それだったら悪くないだろう?」 「どこかでクリスマスパーティあったの?」 「ああ、病院が呼んでくれるんだよ、毎年ね。小児病棟さ」 「しょうにびょうとう?」 大きな病院には子供を診る専門の科があるのは知っているが、子供に縁のないアクセルにはピンとこない。 「たくさん子供が居るよ。白血病、小児がん、生まれながらの遺伝子疾患。そういう子たちは何年も入院して学校にも行けないでいる。でもみんな明るい。私が行くと大喜びしてくれるんだ」 教会の人たちの演奏でクリスマスの歌をみんなで歌い、牧師さまのお話を聞き、美味しいお菓子を食べて、そこへサンタクロースが登場。プレゼントを配ると子供たちの興奮は最高潮。チューブに繋がれたままの子も、ベッドから起き上がれない子も、みんな輝くような笑顔になるという。 「そっか、子供たちは嬉しいだろうなぁ」 「何年も入院している子もたくさん居てね、そういう子とはもう顔なじみさ。ある年から居なくなる子は病気が治って退院したからだったり、そうでない場合もある。詳しく訊く事はしないけど、切ない時もあるよ」 そうだろうな……とアクセルは考える。また会えるという事はまだ病気が治らないという事だ。喜べはしない。そして病院から居なくなる理由が全快したからか、まったく逆か……。前者である事を心から願うばかりだ。 「じいちゃんは凄い人だよ……。立派な仕事だ」 アクセルが心からそう言うと老人は照れ笑いを浮かべて頭をかいた。 「一年に一度のボランティアだけどね。病院が呼んでくれて、身体が健康なかぎり続けたいと思ってるよ」 世の中には病気と闘う小さな子供がたくさん居る事、病気だけれど笑顔を忘れない子供たちが居る事、そしてその子たち支える人々の存在を、アクセルはあらためて知る。 「ありがとう、いい話が聞けて嬉しかったよ」 「私こそ親切にしてもらった。ありがとう、おにいちゃん」 「あ、いやぁ、俺はただ煙草とコーヒーの注文を……」 アクセルは言いかけたが老人はそれを遮った。 「いやいや、おにいちゃん、『ただ』ではないよ。君は私の尊厳を守ってくれたんだ。見知らぬ年寄りの私のね。ああ、私の尊厳なんてこんな小さなものだけどね」 老人は「こんな」と人差し指と親指で何かを摘まむような仕草をして笑った。 「君はコーヒーと一緒に私の名誉を回復してくれて、同時にあの店員に正しい事を教えたんだ。だから心から礼を言わせてもらうよ。ありがとうね」 日頃バーに来る客から帰り際にメルシーは言われるが、面と向かって誰かに感謝される事など滅多にない。アクセルはどんな顔をしていいかわからず照れ笑いするしかなかった。 「何かお礼がしたいな。君が欲しい物でサンタがプレゼントできる何かがあればね」 その言葉にアクセルは仰向いてハハハと笑う。 「ないない。その気持ちだけありがたく頂くぜ」 ──欲しいもの……。その言葉でハリーを思い出した。 今年もハリーは仕事が忙しく、パリに来る事ができなかった。それは毎度の事で、アクセルも居ない事が当たり前だと思っている。でも……。 例えば今この場にハリーが居てくれたら。今夜ネオ・トリアノンのクリスマスパーティを一緒に楽しめたら。自分が作ったクリスマス特製カクテルで乾杯できたら……。 心の隅に押しやっていたハリーの姿が蘇ってきて胸が締め付けられた。外国人である事も、男同士である事も、相手が軍人である事も、全部承知だ。それらのハンデを並べても、それでも好きで諦められなかった。我慢ひとつで済むなら安いものだ。 だが、それでもやはり淋しいのだ。自分の気持ちに嘘はつけない。 「物じゃないけど、恋人とクリスマスを過ごしたい……」 ぽつりとアクセルは呟いた。 「俺の恋人はアメリカ人でさ、アメリカで大事な仕事に就いてるんだ。いつも忙しくてね、年に何度かしか会えない。お互いいい大人だし、俺はあの人の仕事を尊重してるし、わがまま言うつもりはない。でも、ほんの少しの時間でもいいから顔見て『メリークリスマス』って言えたらいいな。……わかるだろ?」 黙って話を聞いていた老人は、ゆっくり何度も頷いた。 「わかるとも。恋人を想う君の気持ちも、思いやりも、素晴らしい事だ。でもサンタのプレゼント袋からそれをポンと出すのは難しいなぁ」 「あはは! 出てきたらびっくりするって」 アクセルにつられて笑った老人は、やさしげに言う。 「思い続けなさい。思う事に我慢はしなくていい。会いたいと思い続けたらきっといい事があるよ」 「……うん、ありがとう」 老人の声は大きくはなく力強いわけでもない。だが不思議な安心感があった。 「……やべ! 今何時? うわ、もうこんな時間か!」 気が付けば日はとっぷりと暮れ、辺りはもう暗い。 「俺、もう行くよ。買い出しの途中なんだ」 アクセルは立ち上がり老人の手を握った。 「話ができて楽しかった」 「私もだよ。縁があったらまた来年会おう」 「サンタ業、頑張ってくれよ。じゃ!」 バイバイと手を振ってアクセルは歩き出す。初対面の人に恋愛の愚痴を言ってしまったが、妙にすがすがしい気持ちになった。 「あ、そういえば……」 アクセルは少し歩いたところで足を止める。今日はクリスマスなのにメリークリスマスと挨拶も言ってなかった事を思い出した。相手はサンタクロースだというのに。 ひとこと言おうと振り返った。 ──あれ? 老人の姿がない。今まで居たテーブルの上には二つのデミタスカップと、まだ薄く紫煙が上がる灰皿だけ。もう席を立って帰ったのだろうか。だが、目を離したのはほんの数秒だ。そんな一瞬の間に……? やがて、往来する人の壁がアクセルの視界を遮る。 「うお! マジで遅くなる!」 時計を見て慌てたアクセルは、不思議に思いつつも足早に通りの先へと歩き出した。※ ※ ※ ようやく全ての買い物が済んでレ・アールに戻ると時刻はすでに5時半近かった。 「すっかり遅くなっちまったな」 パリでは通常、パーティを始める時間は遅い。こんな繁華街のバーではなおさらだ。それでもネオ・トリアノンでは常連客の年齢層が高めなのもあって7時開始を予定している。だが、気の早い客はもう来ているかもしれない。 おそらく、料理や店内の飾り付けなど大体の準備はもう終わっているはずだ。だが、バーテンダーの自分が居なければアペリティフは振る舞えないだろう。そう思うと早くカウンターの準備をしたくて自然と急ぎ足になった。 店の近くまで来ると入り口の前に誰か立っていた。落ち着きなく辺りを見渡している。 「あれ? マリー?」 マリーはアクセルの姿を見つけると慌てて走ってきた。 「アクセル! ああ、やっと帰ってきた! ちょっとぉ、待っていたのよ!」 「遅くなってわりぃ」 「あんたったら、電話しても携帯繋がらないし」 「ごめん、電池が切れてて連絡もできなかった。……レディ・ジョー怒ってる?」 「それどころじゃないわ! 大変なのよ!」 マリーは、早く来いと言わんばかりにアクセルの腕を掴んでぐいぐい引っ張る。普段おっとりしてやさしいマリーが目を吊り上げてこんなに慌てているとは尋常ではない。 アクセルは、待ちくたびれてキレたレディ・ジョーに鉄拳か、ドロップキックか、ジャーマンスープレックスをかまされる事を想像していたが、マリーは「それどころじゃない」と言う。 ──レディ・ジョーの怒り以上に大変な事とは何か。ガキの頃の悪事がバレて今頃警察が来たか……。はたまた昔の悪い仲間が金を出せとオカマを人質に立て籠もっているか……。 悪い想像はいくらでも湧いてきて、アクセルは慄いた。 店内に入ると案の定何人かの常連客が来ていた。幸い警察の姿もギャングの姿もない。店の奥に集まった人々は皆こちらに背を向けている。 「あ、アクセル!」 中の一人がアクセルに気付いて声を上げると、全員が一斉に振り返った。そしてモーセのために割れる海の如く道が開かれる。 割れた人の壁の最奥に黒いスーツ姿の男が立っていた──。 アクセルの両手から買い物袋がどさりと床に落ちる。 「え……うそ……」 茫然と口を開けて立ち尽くすアクセルに男が笑う。 「おい、何ユーレイでも見たような顔してるんだよ」 それでも口をパクパクするばかりのアクセルにキャンディとジョジョが見かねて背を押した。 「もー、そんなとこに突っ立ってないでハリーに『おかえりなさい』を言いなさいよ!」 「だって、だって……仕事は? 俺、聞いてない……」 「色々予定が変わって仕事が早く終わったんだ。急遽だったから来るのに苦労したぞ。お前に電話しても『電源が入ってない』とか『電波が届かない所に居る』だとかで通じないし」 携帯の電池切れによる周囲への影響は予想をはるかに超えていたようだ。 「本当に……本当に、ハリーなんだね……?」 「ハリーじゃなかったら私は一体誰だよ」 思わずその手を取り、手のひらの感触を確かめる。骨ばった指、硬い手のひら……。 「ハリーっ……!」 力いっぱい抱きしめる。大きく息を吸うと懐かしいハリーの匂いがした。 「やっと会えたな」 「うん……」 「なかなか来れなくて悪かった」 「ううん……!」 「……おい、泣くなよ?」 やわらかな声色でめずらしくやさしい事を言うハリーにアクセルが感動していると、それを見越したかのようにハリーは釘をさす。 「今はまだ泣いてないけど、あと10秒くらいで泣く」 「……やめろ」 ただでさえ低音ボイスのハリーの声がさらに低く唸る。それが可笑しくて、アクセルは泣く代わりに笑った。 アクセルが来る前、ハリーはネオ・トリアノンに到着するなり店の全員から熱烈なキスとハグを受けた。ついでとばかりに居合わせた常連客もハグしてくる。一度では足りないのか、オカマたちはまた奪い合うようにハリーに抱きつく。 見かねてレディ・ジョーがパンパンと手を打ち鳴らした。 「みんな、再会の挨拶はそのくらいにおし。ハリーがすり減っちまうよ。これでうちのメンバー全員が揃ったね? もうじき招待客が来る。さあ、パーティだよ!」 この店の経営者はハリーをお客ではなくメンバーとして見ている。それは家族という意味だ。それがアクセルにはたまらなく嬉しかった。 「それじゃあらためて、おかえりハリー」 「ああ、ただいま」 二人はグラスをカチンと合わせた。アクセルが作ったクリスマス特製カクテルだ。 夜も更けてパーティは盛り上がり、今はゲームの時間。お客たちは皆フロアに集まっているため、アクセルは酒の給仕からしばし解放されている。今はカウンターでハリーと二人きりだ。 「本当にびっくりしたよ。あんたは今年もパリには行けないって言ってたしさ。いつまで居られるの?」 「明日の夕方の便でアメリカに帰るよ」 「じゃあ、それまでゆっくりできるね。よかった」 数か月会わなかった分、話したい事ややりたい事が山ほどある。たぶん、アクセルの部屋でごろごろして過ごす事になるだろう。だが、それが嬉しいのだ。ただ一緒に居る……それがいかに幸せな事か、アクセルは身に染みて知っている。 突然フロアの方で歓声が上がった。見ると、キャンディとジョジョがサンタクロースのデザインのワンピースを着て登場したところだ。 「可愛いサンタからのプレゼントが欲しい人、手を挙げてー!」 はーい! という大合唱が起きる。そんな光景にアクセルとハリーは顔を見合わせて笑った。 キャンディとジョジョのサンタクロース姿を見て、アクセルはカフェで会った老人の事を思い出した。 不思議な老人だった──。みすぼらしい恰好をしていたが、今思うと本当に貧しいとは思えない。ボランティアで病気の子供たちにプレゼントを配っていたなら、そのプレゼント代は自費であろう。血色のいい丸い顔も栄養状態は良さそうで、ちゃんと食事を摂っているに違いない。それにしても、数秒目を離した間に煙のように消えてしまったが、一体どこに行ってしまったのだろう。 『会いたいと思い続けたらきっといい事があるよ』 アクセルはハリーを見た。自分が一番欲しいと願ったプレゼントであるハリーを……。 偶然だろうか……。 ──まさか。 カバンの中のサンタクロースの服は本当にパーティ用の衣装だったのだろうか。もしや、くたびれたねずみ色のコートの方が……。ばかばかしいと思うが、でも……。 「どうした、考え込んで」 黙り込むアクセルの顔をハリーが不思議そうにのぞき込む。 「あ、あのさ、ハリー……」 ──サンタクロースって本当に居ると思う? 「……いや、何でもねえよ」 言っても、きっとハリーは信じないだろう。不思議な老人の事は自分の胸の中にそっと仕舞っておく事にした。 「メリークリスマス、ハリー」 誤魔化すようにそう言って、アクセルはグラスを掲げウインクした。 ──ありがとう、じいちゃん……。