パリ1区の混雑した道を、プジョーは縫うように走る。
夕方の中心部は毎日酷い混み具合だ。ましてや今日は金曜日。週末を楽しむために移動する地元っ子、国内外からの観光客。ホテル周辺や観光名所に人と車が溢れている。
前のタクシー、早く動きやがれ!
信号が青になった事に気付かないタクシーにクラクションを鳴らす。
イラつく気持ちとは裏腹に、空はとんでもなく美しい色と光に溢れていた。
抜けるような青空に沈みかける太陽が薄い雲のベールに覆われて、温かな色のグラデーションを作る。
ごみごみした中心部を抜けてようやく北に向かう幹線に入ると、俺はポケットから携帯を取り出した。
今頃、キャンディは出勤の身支度をしているだろうか……。
相手はすぐに電話に出た。
「あ、俺だけど、ちょっと頼まれてくんね?」
『何よ……あたし今忙しいのよ』
「今、何やってンの?お前」
『マニキュア中。あんたのせいではみ出ちゃったじゃないの!』
「こっちは俺の一生がかかってんだ!」
と、言っても過言ではあるまい。キャンディが早く言えと諦めたように言う。
「シャルル・ド・ゴール空港に電話して調べてほしいんだ。5時半前後と6時半前後にワシントンD.C行きの便があるか。正確な時間と便名と。あとついでに搭乗口がどこかも」
『……もしかして例の金髪の彼氏追いかけてるの……?』
恋愛に関して勘のいいオカマに、俺はそうだと答える。
『やるじゃん』
電話の向こうでキャンディが微笑んでいる気がした。
『貸しは高いわよ』
「この礼はなんだってしてやるよ。あ、でも俺の身体とかキスとかはだめだからな?俺の身体はあの人のもので……」
俺がまだ喋っているというのに奴は、気色悪い事ぬかすな!と言って一方的に電話を切りやがった。冗談とわかっていても悪質だったらしい。
とりあえず、折り返しの連絡を待つ事にする。
東の空にいつの間にか月が出ていた。白く、淡く、大きな満月。
この愚かなドン・キホーテを笑っているのか。それともただ成り行きを見守っているのか。
風車をドラゴンと思い込んで突っ込んで行った男のように、俺は国家の殺人者を天使と思い込んでいるのだろうか。
いいや、そうじゃない。泣いたり笑ったりする普通の男を愛しただけ……。ただそれだけなのだ。
もう一度ひと目会って伝える言葉は、たとえ愚かな事だとしても……。
へたれ騎士を乗せたプジョーは北東へとひた走る。
もう少し行くと、この先はハイウエイ――。




骨ばった細い手が窓ガラスの水滴を拭う。
青白く照らし出された男の背中。細身ながらもしっかりとした筋肉。
「何見てンの?」
問いかけにも振り向かない。
「雲が……出てきた……」
言われてベッドから半身を起こし、男の背中越しに窓を見る。
白濁した夜空。雨になるかもしれない。
「寒くね……?」
背後から腕をまわして男の身体を抱き込めば、案の定、冷たい背中。
あれほど騒がしかった下の通りは、今やすっかり静まり返っていた。
夜の住人たちは自分の巣穴に帰ったのだろう。
地球上に二人だけ取り残されたような静寂。
後ろから首を伸ばして男の頬にキスをする。目尻に、髪に、そっと口付けを落とす。
「……ね、何か話して」
「……何を?」
「あんたが住んでる街のコト」
鎖骨には俺が付けた赤い刻印。そこに舌を這わせる。
「ワシントンD.Cは……そうだな……あそこにはアメリカの大統領が住んでいる」
「くくく……知ってるよー」
肩に顎を乗せて笑うと、男もつられて目を細めた。
「整然としていて綺麗な街並みだ。政治の街だからお堅い雰囲気はあるけどな……そのくせ犯罪は多い」
彼の声が好きだ。耳に心地良く響く低めの声。首筋に唇を這わせると声帯の振動が唇にも伝わる。
抱き込んだまま手のひらで胸を撫で、脇腹へと滑らせた。
「季節ははっきりして、夏は暑く冬は寒い。雪も結構積もる。春には……あ……っ……!」
触れるか触れないかの力加減で内腿を撫で上げると、小さく叫んで俺の肩に首を仰け反らせた。
「う……んんっ……」
俺は手を止めず、男の耳たぶを唇でなぞりながら囁いた。
「続けて……」
「桜が……桜が咲く。昔、日本から贈られた苗木が大きくなって……川沿いの道は……ピンク一色になる」
「満開の時はサイコーに綺麗だろうなあ」
「いや……最高に綺麗なのは散る時だ……壮絶に……んっ……あ……アクセル」
内腿の付け根をなぞっていた指は、とうとう彼に押えられた。
「感じちゃった?」
クスッと笑うと男は振り向いて抗議の目で見上げてくる。
恥じらいに怒りを滲ませた顔があまりにも綺麗で、散る桜を重ね見た。
「ゴメン……もうしないから、もっと話して。あんたがいつも働いている所、どんなトコ?」
両手は悪戯をやめ再び男を抱きしめるが、うなじや肩へのキスは続ける。
「五角形の壁の奇妙な建物だ。中には銀行や郵便局やショッピングモールまである。以前は一般の観光客も内部を一部見学出来たが、今はやってないようだな」
「なんでやらなくなったの?」
彼はしばらく無言で、そして遠くを見るような目で話を続けた。
「ある晴天の朝、突然、旅客機が突っ込んできた……。信じられないだろ?」
男の口調に悲壮感はない。まるで、今朝見た夢の話でもしているような……。
俺は首筋を彷徨っていた唇の動きを止めた。
ワシントンD.C、五角形の建物、旅客機……。幾つかの言葉の断片からひとつの事件が浮かび上がった。
世界中を震撼させた悲劇の現場に、この人は居たのだ。
「……100人以上死んだ。私の友人も何人か居た。みんな民間人で……」
男は突然、言葉を切った。蒼ざめた顔で俺を振り返る。
「すまない。こんな話をするつもりでは……。忘れてくれ……」
垣間見たこの人の悲しい記憶。あと幾つこんな記憶を抱えているのか。
男は再びそれを封印し、鍵をかけようとした。
そうしてしまう前に、俺はその身体をあらためてきつく抱きしめ、頬をすり寄せる。
言うべき言葉はまとまらないまま、それでも口を開かずにはいられなかった。
「俺さあ、自分でも思うよ、年齢よりもガキだなあって。人には迷惑かけてばかり、つらい事があるといつも逃げて、言い訳して……。それに引きかえ、あんたは実年齢より長く生きてるみたいに強くて優しくて、しかもエリートだ。俺が居たってあんたの仕事の役に立たないし、キャリアの上でなんの得にもならねえ……」
子供のように頬ずりされる男は目を閉じて黙って身を任せていた。
「でもさ、こんなのどうよ?楽しい事があったら一緒に笑って、悲しい事があったら一緒に泣いて、時には励まして。それによって、あんたが明日も元気になれるような……。俺、あんたにとってそんな存在になりたい……」
俺は頬ずりをやめて男の肩口に顔を埋めた。
「あんたが今よりもっと強くなれる、そんな人間に……俺、すごくなりてェ……」
腕の中で男が身じろいだ。腕を解くと彼は振り向き、俺と向き合った。
なぜ、今、この男は、こうも優しい目をしているのだろう――。
男の手が頭に伸びてきて引き寄せられる。そのまま唇が触れ合った。
そっと、浅く小さく、何度も唇が重なる。初めてのこの人からのキス。
口付けの合間に聞こえた言葉は――

『ありがとう』

俺はまたひとつ、宝石のような言葉を贈られたのだ。
泣きたくなったが堪えた。この人の前で俺が泣くわけにはいかない。
ごくわずかでも、俺はこの人を救う事が出来ただろうか……。
「目ェ閉じろよ……」
囁かれて、言う通りにする。
途端に激しく口付けられた。
侵入してきた男の舌に捕えられ、翻弄される。
今、初めて思い知らされたこの人の本気の口付けに、つい持っていかれそうになる。
すげ……上手すぎ!やべェって……。
煽られるなんて生易しいもんじゃない。今すぐお前を寄こさないとこっちから行くぞ、と言わんばかりだ。
唇を解放されると、俺はすかさず男の腕を引いて自分の身体の下に組み敷いた。
上等!
「覚悟はできてンだろうな」


約束の夜明けまで、あと少し。
まだ、もう少し……。




内ポケットの中で携帯が振動した。
「キャンディ、待ってたぜ」
『もうっ!空港の電話番号自体がわかんなくて苦労したわよ!』
気色悪い俺のジョークを忘れてくれたようだが、なんだかんだ不機嫌らしい。
『ワシントン・ダレス国際空港行きってのが5時50分にあるわ。ユナイテッド航空127便よ。その後のワシントン行きは10時30分だから、5時半か6時半かって言うなら127便じゃない?搭乗ゲートは第1ターミナルの3階よ』
ゾーイのうろ覚えの時間とは全然違うんだが……。“半”ってのはどっから出てきたんだ?ジジイ……、ボケてきてンな……!
それにしても、キャンディは俺が知りたい情報を的確に調べてくれた。
「助かった、恩に着るよ!」
『お礼は『La Maman』のシナモンロールでいいわ』
「うそ、そんなモンでいいの?」
『あんたの身体よりずっと価値あるわよ』
ムカつくオカマだ……。
「あのさ、キャンディ……信じられない話だけど、俺ちゃんと愛されてたらしい」
キャンディは電話の向こうで、そうよかったわねえ、とうれしそうに言ってくれた。
『あたしがこの間あんたに言った事、覚えてる?』
「忘れてねーよ。てか、その言葉を支えにして、今走ってんだ」
それでいいのよ、とキャンディは言って電話を切った。
快楽主義で楽天家、いつも強気な恋愛哲学者。
キャンディが居なかったら俺はもっとうじうじまごまごして行動を起こさなかっただろう。
現実的に考えれば、俺は勝ち目のない戦いに挑もうとしているかもしれない。
ガブリエルはゾーイの言葉通りの時間、飛行機に乗るとは限らない。127便という保障はどこにもない。俺は離陸前に到着出来るが、彼が早めに搭乗してしまったらもう終わりだ。
そして、空港で彼を捕まえる事が出来たとして、どうにかなるのだろうか。
俺から離れようとしたガブリエルを一度は無理に引き戻した。だが、結果的に彼は消えた。それが彼の答えのすべてではないのか?
俺たちは今日さよならをする。それは変えられない。
だけど、人生は流れ続ける。
今日の別れが、俺たちが最終的に辿り着く所じゃないと、俺は信じたい。


『繋いだ手を離さなければいいのよ――』


ハイウエイA1は間もなく空港に差し掛かる。




車は緩やかに空港敷地内へと進入する。
案内標識に従って第1ターミナルの駐車場に入った。
車を停めてから戸惑った。第1ターミナルと第2ターミナルは別棟なのだ。
先週来たのは第2の方だ。第1ターミナルは初めて来た。初めての場所で、はたしてガブリエルを見つける事が出来るのだろうか。
おまけに建物から駐車場は結構遠い。
時刻は5時。躊躇している時間は無い。
ターミナルまで走る俺の頭上をジャンボが一機、ジェット音を轟かせて離陸して行った。


ガブリエル……いや、ハリーと呼ぶべきだろうか。 俺が付けた名を、あんたは気に入ってると言ってくれた。 だから、あんたがあらためて自己紹介してくれるまで、 今はまだこの大天使の名で呼ぼう。
ターミナルの中に入ってその広さに圧倒された。しかも酷い混雑だ。 一日の中でもこの時間帯が一番混み合うようだった。 俺はコンコースの真ん中に突っ立って360度辺りを見渡す。 この建物は円筒形らしい。中央は最上階までの吹き抜けになっている。 構造が第2ターミナルより単純なのが救いだ。だが時間が無い事に変わりはない。 各サテライトの発着を表示したディスプレイがある。 だが、慌てる俺にとって、細かい数字の群れはまるで理解出来ない。 そうだ、誰かに訊こう。誰かにって……誰? 俺の目にユナイテッドのサービスデスクが映った。 俺は走った!
あんたを追ってここまで来ちまった。 諦めの悪い男でごめんな。 先週の金曜日。 ちょうど一週間前の、時刻もまさに今くらい。 パリに到着したばかりのあんたと手を繋いで空港から逃走したっけな。 たった一週間だ。 でも、その一週間で俺は一生分の恋をした。 あんたを愛し、あんたが愛してくれたこの7日間。 この宝物みたいな日々を、俺は絶対忘れねェよ。
「ちょっと教えてよ!127便は定刻通りの出発なの!?」 サービスデスクの若い女性に、俺は身を乗り出してまくし立てた。 お待ちくださいと女性は言い、端末のキーを叩いた。 「はい、定刻通り5時50分の出発ですが、機体の最終チェックに遅れが出ていますので、若干遅れる可能性もございます。ですが、搭乗開始は時間通り出来ると思いますわ」 飛ぶのは遅くなるかもしれないが、客が乗り込むのは時間通りか……。それじゃ困るんです、おねェさん……。機内に乗り込まれたらもう捕まらない。 俺は礼を言ってその場を離れた。 その時、軽快な電子音が館内中に鳴り響き、悪魔の搭乗案内が流れた。 『ユナイテッド航空127便、ワシントンD.C行きの搭乗を開始します。お乗りのお客様は……』 フランス語の案内の後に英語で同じ内容の案内が響き渡る。悪魔の波状攻撃に、俺はパニック寸前だった。
ゾーイが言ってたぜ? あんたはすべてを自分の中に取り込んじまうって。 それは致命的なあんたの欠点で、いつかあんたは壊れるって。 全部一人で受け入れて、一人で消化しちまうから、 だから誰も必要としないんだろ? 強くなきゃ出来ない事で、それがあんたの優しさなんだけどさ。 でも、よく考えたらそれってずるくね? そのおかげで相手は置いてきぼり食らうんだからさ。 でも、あんたは無意識にそうやって生きてきて 他にやり方を知らないんだろうなあ。 そろそろ気付いてよ。 そしてこれ以上ひとりぼっちになるな。
エスカレーターを駆け上がった。 「すみません!ちょっと通してください!すみません!」 人をかき分け迷惑そうに睨まれながら、上昇する階段をさらに上がる。 大丈夫だ、きっと大丈夫。一回案内が流れたからといってもまだ彼は乗るまい。 窮屈な飛行機のシートを嫌ってぎりぎりまで乗り込まない人はたくさん居る。 3階に降り立ったところで、慌てて人にぶつかってしまった。 子供かと思うほど小柄なおばあちゃんだった。おばあちゃんは転ばずにすんだが、両手にいっぱい抱えていた荷物を落としてしまった。 「うわ、ごめんなさい!」 俺はしゃがみ込んで飛ばされた荷物を拾っておばあちゃんに渡してやる。 ご親切に……と感謝の言葉を言われかけたが、ひい!と悲鳴を上げられた。 たぶん、立ち上がった俺の背がデカかったせいだろう。 びっくりさせてゴメンナサイ……。俺、190センチくらいあるけど、そんなに悪いヤツじゃないよ?ドクロのペンダントはただのアクセサリーですし、はは……。 このフロアは絶句するほど混み合っているのだ。おまけに広い。自分が今どこに居るのか位置関係がわからない。ここの造りはSF映画のセットみたいだ。 どうやら、すべての出発客がこのフロアに集まっているらしい。吹き抜けのエスカレーターで4階に上がって行く人も居る。 じゃあ、ワシントン行きの乗客はどこに行けばいいのか。 案内板を見つけて食い入るように見取り図を見る。 どうやら……搭乗手続きをこのフロアでやって、売店やレストランで時間を潰し、4階にある7か所のサテライトのどれかから搭乗するらしい。見送りは4階には行けないのか? あまり時間がない。 もし、本当にガブリエルが127便に乗るとしたら、今彼はここに居る可能性が高い。 俺は走った。あの人の姿を求めて、時々立ち止まり、また駈け出して、歩く人の流れをかわしながら。 どこに居るんだよ……ガブリエル!
俺の手を取れよ、ガブリエル。 余計な荷物を抱えているなら少し俺にもちょうだい? 俺はずっとここに居るからさ。 あんたにとって、この世界は決して広いものじゃないだろ? 大西洋の向こうにあんたを愛する馬鹿が一匹居るって事、 どうか忘れないでよ。
「!!」 今……視界の隅に、何か感じた……。 一瞬だったけど、何か空気の揺らぎのような不思議な感覚……。 この感覚を、俺は知っている! どこだ?こっちの方を見た時、一瞬視界に入った所だ。 壁際……いや、窓際! サテライトに面した大きなガラス窓の前、ライトアップされたジャンボの機体を背に、あの人は立っていた――。 相変わらず周りと溶け込む事のないその姿。そして圧倒的な美貌。 白いコートに黒のタートルネックは日曜日に着ていた物と同じ。 俺は、近寄る事も声をかける事も忘れて、馬鹿みたいに見惚れていた。 何メートル離れているかわからないが、俺たちの間をたくさんの人々が横切って行く。 ぼんやりしていたガブリエルが何かに注意をひかれてポケットに手を入れた。 電話がかかってきたらしく、携帯を開き耳に当てる。 笑顔を浮かべるわけでもなく、淡々と喋るその横顔。仕事絡みの電話だろうか。 喋りながら、ガブリエルが何気に俺の方を見た。 視線が……絡んだ……。
今はサヨナラを言おう。 でも、俺たちはまだ人生の半分も生きちゃいない。
茫然と大きく見開かれた青い闇色の瞳。 携帯が耳から離れ、その手はゆっくりゆっくり下に下ろされていく。 たぶん会話の途中だ。電話の相手は突然の沈黙に“もしもし!?”を連呼しているだろう。 今、その瞳に映る俺はどんな顔をしているだろう。 泣きそうな顔をしてはいないだろうか。 少しは頼りがいのある男の顔をしているだろうか。 優しく笑えているだろうか。 ガブリエルの驚いた顔は、やがて叱るような厳しい表情になり、顔を上げて目を閉じた。そして目を開けると、呆れたような顔をして俺に微笑んだ。 ああ……俺を呼べよ、ガブリエル。 呼べばいつでも応えるって言っただろ? ちゃんと受け止めるって言っただろ?
俺たちの船はようやく港を出たばかりだ。 長い長い航海の果てに 俺たちは一体どこに辿り着くのか。 もし、あんたさえ良かったら…… それを一緒に見に行ってみないか?
「俺を呼べ!!ガブリエル!」 「――――!!」 ガブリエルは叫んだ――。 『ユナイテッド航空127便ワシントンD.C行きをご利用のお客様は……』 館内に響き渡る搭乗案内と同時に、俺の近くで団体客の歓声が上がり、ガブリエルの声はかき消された。 だが、叫んだ彼の口の動きは――。 『ア  ク  セ  ル  !』 間違いなくガブリエルは俺を呼んだ。 必ず応える、と……俺は約束したのだ。 そして、金色の髪が流れ、白いコートの裾がひるがえるのを、俺は見た。 ボロボロの手のひらがこちらに伸ばされる。 俺は、それに向かって駆け出した。
さあ、行こうぜ?
                                    
Fin
                                  

この物語を執筆中、思い通りに書けず悩んでいた時「思い通りに書ける文章書きさんは居ない。みんなそれを目指して頑張っているんですよ」という言葉をくれた方が居ました。その時とても救われた気持ちでした。
これはその方に捧げた小説です。

[2008年 4月 17日]