『Night Runners』のトナカイ・アクセルとハリー・サンタの3作目でした。相変わらず萌えの方向性がななめですw
地衣類という生物(菌類+藻類)をトナカイが食べるというのは事実ですが、風邪に効くというのは創作ですよ?念のため。
[2018年 12月 24日]
真夜中、摩天楼の上空を俺たちは駆ける──。 「どこに下りるー!?」 「あの高いビルがいい! 屋上にヘリポートがあるだろ!」 「了解!」 風の音に負けない声でサイドカーの俺が指示すると、やはりバイクにまたがった運転手も大きな声で答えた。 北から南まで。西から東まで。俺たちは世界中を飛び回り、そして今、最後の目的地であるこの大都会に辿り着いた。 「すげぇな! クリスマスツリーだらけだ」 もみの木の事ではない。乱立するビルが、その窓の明かりに輝いて電飾で飾られたクリスマスツリーに見えるのだ。足元にはそんなコンクリートのツリーが無数に広がる。 今夜最後の休憩にヘリポートに降り立った俺たちは、ヘルメットを脱いで煙草に火を点けた。 高所ゆえ風が強い。髪が激しくあおられ、耳元で風が唸る。当然寒いが、それでも先ほど寄ったアイスランドの上空に比べれば爽やかなものだ。 「ところで、体調はどうだ?」 俺が訊くと、トナカイはグッと親指を立てて「バッチリよ!」と答えた。 「何日も寝ていた分のエナジーがここにきて漲ってる、って感じ? とにかく、やっとバイクに乗れてテンションもパワーもマックスだぜ!」 「元気なのは結構だが、張り切りすぎて事故るなよ?」 俺は一口煙草を吸い、そう苦笑った。 トナカイの風邪はどうやら完治したらしい。つい数日前には“死ぬ”とか“もうだめだ”と言っていて一時はどうなる事かと思ったが、バイクのエンジンも奴のハンドルさばきも絶好調だ。おかげで今夜は俺史上最速の任務完了となりそうだった。 「俺がこんなに元気になれたのはサンタの看病のおかげだけど、あの薬には本当に助けられたな。それに地衣類も、普段当たり前に食ってる物なのに、トナカイにとってこんなに大切だったなんて知らなかったよ」 俺に倣ってトナカイも煙草に火を点けると、そうしみじみ言った。 トナカイの劇的な回復を受け、その後本格的に薬の量産が進められた。備蓄してある地衣類を使い、すべての患者に行き渡る薬が作られる事になる。 これでようやく、今回のやっかいな風邪の流行は収束するだろう。 俺はふと、長い事忘れていた物を思い出した。 「──ああ、そういえば薬で思い出した。私宛てで本部にこんな手紙が届いていた」 風邪騒動で忘れていたその手紙をポケットから取り出し、トナカイに差し出した。 「え? 俺が見ていいの?」 毎年、本部には俺宛てに子供たちから手紙が届く。膨大な数の手紙に俺は全部目を通す。大変な作業だが、サンタクロースの存在を信じる子供がたくさん居る事に嬉しいと思う。そしてその手紙をもとにプレゼントを用意するが、手紙を読む事ができるのは俺だけで、他の者に見せる事はない。本来ならば、だ。 「えーと、なになに? 『サンタさんへ』」 トナカイは面白そうに手紙を読み始めた。 「『サンタさん、お願いがあります。とっても欲しい物があるんです。ママがサンタさんにお願いをすれば何でも欲しい物をプレゼントしてくれるって言ってました。……どうか……どう……』」 手紙を読み上げるトナカイの声が急に先細りになる。そして数秒沈黙した後、大きく目を見開き、勢いよく手で口を塞いだ。 俺は後ろから手を伸ばして手紙を取り上げた。 「ちょ、ちょっと!」 「私が続きを読んでやる」 「あ!? いいって! 返せよっ!」 奪い返そうと伸ばしてくる手をかわし、俺は続きを読み上げた。 「『……どうかどうか、僕にプレゼントをください。僕が欲しい物というのは、それは絶対に風邪をひかない魔法の薬です。12月は寒いのに、サンタさんは毎年子供にオモチャを配って飛び回っているので風邪をひかないか心配です』……」 ちらりと横目でトナカイを見ると、目をそらし落ち着かない様子でひたすら煙草を吸っている。俺は笑いをこらえて続きを読んだ。 「『……だからそういう薬を作って僕にプレゼントしてください。僕がサンタさんにあげたいんです。どうかお願いします』……以上」 「……変な手紙」 相変わらず目をそらしたまま、ぶっきらぼうにトナカイは言う。 「私もこんな可笑しな手紙をもらったのは初めてだな。年に一度のお願い事なのに、サンタさんへのプレゼントをサンタさんにお願いして、それを自分から本人に渡したいなんて。でも、何とも心優しい子供だと思わないか?」 視線を合わせないトナカイの正面から顔を覗き込んで言えば、奴の顔は真っ赤だ。 「そのくせ、差出人の名前が書かれてないからどこに届ければいいかわからない。おまけに切手も貼ってないし、いったいどこから投函したのやら」 「いたずらじゃね? そんな手紙」 「これ書いたのお前だろ」 俺のひと言にトナカイは1メートルくらい飛び退いた。 「な……何言って! んなわけねーだろ!」 面白いほどうろたえている。 「それにしてもよく書けてるじゃないか。ママって……。お前、小説家になれるんじゃないか?」 「だからっ、俺じゃねえって! 何を根拠にそんな……」 「根拠ならある」 手紙の裏面をトナカイの鼻先に掲げた。 「ん? なんだコレ……」 文面が書かれてある裏面の端に、ぐるぐると円を描くラクガキ。それと意味をなさないアルファベットの文字。 「家で書き物をしていた時、途中でペン先を交換したからインクの出を確認するために試し書きをしたんだ。お前、家の古新聞の束からこれを拾っただろ」 「う、うわぁあああああああ!」 動かぬ証拠にトナカイは悲鳴を上げた。 「これから匿名で手紙を出す時はちゃんと確認しろ。あと、家に捨ててある紙を使うのはやめとけ」 「……そうする。チクショー!」 ついに認めざるを得なかったトナカイ。こいつらしい詰めの甘さに笑ってしまった。 「やだやだ……恥ずかし過ぎる……」 トナカイは頭を抱えてしゃがみこんだ。耳まで真っ赤になっている。 「おまけに、人の風邪を心配するお前の方が風邪をひいたなんて世話ないな」 「ソ、ソウデスネ……」 「でも、どうしてこんな回りくどい事したんだ? 直接言えばいいじゃないか」 「だって……」 恥ずかしさで顔を隠した手の間から俺を見上げて、トナカイはぼそぼそと言う。 「サンタは子供の願い事は絶対聞くだろ? 風邪ひいてほしくないってお願いをする子供が居ると知れば、注意喚起になるかと思ってさ。風邪が大流行している時だったし……」 俺はトナカイの腕を掴むと立ち上がらせ、大きな身体を抱き寄せた。 「優しいヤツだな、お前は」 「サンタ……」 「ありがとう、トナカイ」 「あんたが『ありがとう』って……明日絶対雨が降る」 「嬉しかったからあの手紙は額に入れて飾っておくよ」 「どういう嫌がらせだよ、それ」 俺は笑ったがトナカイは本気で嫌がっているようだ。 「手紙の礼にいい事教えてやろう」 俺は身体を放し、言う。 「せっかく心配してもらってなんだが、サンタクロースは風邪をひかないんだ」 「え? 何で?」 「何でと言われても、そういう存在なんだよ。普通の人間とは違うんだ」 今、プレゼントを届けている子供の親が子供の時も、その子供の親が子供の時も、俺はずっと昔から変わらないままでプレゼントを届け続けている。 サンタクロースとはそういう者。 「でもな、いくらサンタクロースが元気でも一人じゃ何もできない。サンタクロースを乗せて飛んでくれるトナカイが居なきゃ意味がないんだよ」 「俺たちはパートナーってやつかな」 トナカイの言葉に俺は少し考える。 「それ以上かもしれないな。二人合わせてひとつ、じゃないか?」 言いながら俺はヘルメットを被った。 「ゆっくり休憩しすぎたな。そろそろ行くか」 「だな! 残りはあと少し。早いとこやっちまおう!」 エンジンをかけてヘルメットを被ったところで、トナカイが思い出したように言った。 「そういえば内務大臣から聞いたけど、他のトナカイに変えたらって大臣が提案した時、あんた絶対だめだって言い張ったんだって?」 こいつ、忘れていた事を今頃……。 「どうでもいいだろ、そんな事は」 俺を無視してトナカイは喋り続ける。 「あと、俺の運転技術はピカイチだって。他の者には無理だって」 「うるさいな、早く行けよ」 これはさっきの仕返しらしい。 「俺ってあんたにとってかけがえのないトナカイって事だよね! 愛だね!」 「いいからさっさと飛べ!」 こいつが調子に乗ると絶対ドジを踏むから嫌なんだ。 トナカイは嫌がる俺を見て満足そうに笑い、ギアを入れた。 シャン、シャン、シャン、とエンジンが快調に唸り、エアバイクは上昇する。 こんな風に騒々しく、子供のようにふざけ合って、それでも唯一無二の俺たちは最高の仕事をこなす。 「頼りにしてるぞ、相棒」 俺たちは赤い矢のように夜空を駆けた。
fin
『Night Runners』のトナカイ・アクセルとハリー・サンタの3作目でした。相変わらず萌えの方向性がななめですw
地衣類という生物(菌類+藻類)をトナカイが食べるというのは事実ですが、風邪に効くというのは創作ですよ?念のため。
[2018年 12月 24日]