レディ・ジョーのはからいでいつもより早く仕事をあがらせてもらった。 さすがにこの時間ともなればハリーはもう帰って来ているだろう。 ハリーには昼間のうちにこの部屋の合鍵を渡してある。こんな展開になるなんて、渡しておいて正解だった。それに合鍵を渡すなんて、まるで一緒に暮らしているみたいでなんだかくすぐったい。 てっきりもう眠っていると思ったら、浴室から明かりが漏れていた。 彼の帰宅は遅かったらしい。こんな時間になって風呂に入っているようだ。 洗面所から浴室に向かって声をかけてみた。 「ハリー、風呂?」 「ああ、帰ったのか?早かったんだな」 ただ静かに湯に浸かっていたのだろう。物音ひとつしなかったシャワーカーテンの向こうからハリーの身じろぎと共に初めて水音が聞こえた。 穏やかな言葉のやり取り……。日中イラついて声を張り上げて、挙句に蹴りあげられて、そんなすったもんだがあったなんて嘘みたいだ。 俺が悪かったんだ。後でちゃんと謝ろう。そんな俺の気持ちをハリーはすでに察しているようだけど。 「お前も風呂に入りたいんだろう?もうすぐ上がるから待っててくれ」 そんな風に声をかけられた。 いいんだ、ゆっくり入ってろよ……と返事をしようとして、だが口から出た言葉はまったく違っていた。 「あのさ、俺も一緒に入っていい!?」 「はあっ!?」 言われたハリーは驚いただろうが、一番驚いたのは俺自身だ。 自分の言葉にえっ?と思った。本当にそんな事を言うつもりはなかったんだ。 でも、俺の行動も言葉に連動していて……気が付いた時にはシャツを脱ぎ棄てていた。 「おい、ふざけるな!こんな狭い湯船に二人入れるわけ……というより私はゴメンだ!」 ハリーの苦言は面白いように頭の中を素通りして行く。 すべて服を脱いでシャワーカーテンを開けた。 と、同時に泡がたっぷり混ざった湯を顔にかけられる。 「ナニ考えてるんだお前は!」 顔を拭って目を開けると、怒りまくって第二弾のお湯攻撃の構えをとるハリーが居た。 「ちょっと、そっち詰めて」 攻撃される前にハリーの肩を押さえ、彼の背後に回って湯船に入り込み腰を下ろした。俺の体積分の湯が溢れる。両脚を伸ばしてハリーの身体を挟むように脚の間に座らせ、上体を俺の胸に凭れかけさせた。 「おい……」 いつもより二割増しの低音ボイス。ちょっと怖い……。 「なんで入ってくる」 「わかんねえ」 本当です……。 おそらくハリーは怒りたかったんだと思う。 でも俺の手際のいい侵入に呆気にとられているうちに怒鳴りつけるタイミングを逃してしまったんだろう。それにこの狭さで背後から抱き寄せられ暴れる事も出来ないでいる。 意外なほど腕の中に大人しく納まってくれているけど、その背中から不満のオーラがビシビシ伝わってくる。 「あんたがパリに着いて約12時間」 「……?」 「その間キスのひとつもしてねえ……」 「……」 「昼間もずっと我慢していて、あんたに貰ったものは膝蹴りの一撃だけだった……」 「……」 「あの時痛かった……さすがプロだなと……」 「……何が言いたい」 「や、何も」 殊勝にも謝ろうという先程の考えは遠いどこかへ行ってしまったようだ。 「ただ、普通の善良な民間人が他国のプロの武力をまともに受けて、ああ怪我しなくてよかったなとか、戦闘のエキスパートの力って凄いなとか……」 「やめんか!わかったから!」 ちょっと卑怯だとは思ったけど……。 「キス、だけだからな……」 小さな声でぼそりと言うハリーの顎をすかさず掴んで俺の肩口で仰向けさせた。 素直に唇を開けたハリーに覆いかぶさる。 実はハリーは俺なんかよりキスが凄く上手い。 仕掛けたのはこっちでも、唇を離す頃には俺の方がヘロヘロにさせられている。 しかも驚いた事に、この人は自分が上手いという事も俺が骨抜きにされている事にもまったく気が付いてない。 いつもキスだけで済まなくなるのは、自分のテクのせいで俺が煽られるからだと、ハリーには絶対言うつもりはない。 ハリーの肩に巻きつけていた手をずらして胸の小さな先端に指を這わす。円を描くように指の腹で何度も擦ると彼の肩に力が入った。さらにそこを摘まむと喉の奥で小さく呻く。 この時点で彼は気が付いているだろうか、キスだけで終わらないという事を。 顎を掴んでいた手を離すと湯船の底まで手を潜らせ、脚の間にあるハリーの中心を握り込んだ。 途端に腕を強い力で掴まれた。舌の動きが止まったその隙にキスの主導権を取り返す。 すでに硬度を持ち始めていたハリー自身を上下に扱くと唇を振りほどかれた。 「やめろ!」 振り返り怒鳴られる。上気した目元に怒りが滲んでいる。 「気持ちよくねえ?」 あんたのカラダは気持ちいいって言ってるけど? 「キスだけだと言ったろう!」 「でも俺は同意しなかったでしょ」 「……卑怯だぞ」 「うん……でも卑怯にならざるを得ない俺の気持ちも察して?」 そうまでしてもあんたが欲しいのだと、小さく告げて手の動きを再開させると、ハリーはきつく目を閉じて俯いた。 手の中のものが張りつめていくにしたがって、ハリー本人は逆に冷静さを保とうと努力しているのがわかる。喘ぎ声どころか吐息すら噛み殺している。 どこまで堪えられるんだか……。 そう思うとその頑張りを崩したくなるものだ。 ハリーを自分と向き合わせて脇に両腕を回すと一気に彼の身体を湯から引き揚げた。湯船の狭い縁に腰掛けさせる。すかさず俺は湯の中で跪いて彼の股間に顔を埋めた。 「……ク……ッ!」 ハリーの片手が俺の髪を握りしめる。 思えば、ハリー自身を口で愛撫するのは初めてだ。つまり、男のモノを咥えるなんて事自体が初めてだった。 生まれて初めて口に含んだ男の性器は石鹸水の苦みと清潔な香りがした。 なんだかちょっと可笑しくなった。そして妙に嬉しい気分になって夢中で舌を絡める。 見上げると静かに快感と戦うハリーの顔。 「もしかして咥えられるの初めて……とか?」 「……男には……な……」 「女にされるのとどっちがイイ?」 「そんな事……わかるわけ……うっ!」 最後の呻きは強く吸い上げられたからだ。 よせ、と絞り出すような声で言われ、限界?と訊いた。 いずれにしてもイかせるつもりはないけれど。 ハリーの腰を両手で掴んで引き寄せた。俺の上体に跨って抱き付く形になったハリーの腰にしっかり腕を回し、そして手を前からくぐらせて彼の後ろに指を一気に突き入れた。 「う……あっ!」 弾かれたように仰け反り突き出された胸の突起にしゃぶり付く。 突き入れた指で中をかき回す。 「や……めろッ!」 逃げようとする腰を押さえ付け、もう一本指を潜り込ませた。かき回す力を強める。 「ああぁっ!」 ハリーの頑張りはここまでだ。 密閉されてはいないが堅いタイル貼りの浴室の壁にハリーの嬌声が反響した。 「色っぽい声……。音響効果もバッチリだね」 余裕のあるところを見せようと笑ったけど、実はまったく余裕なんてない。 今の声に完全にヤラれてしまった。 俺の顔の横で喘ぐハリーの髪をひと房わし掴みにすると、顔を向けさせ噛み付くように口付けた。 その間も動き続ける指の愛撫に上げられる呻きは、しかし口を塞がれ、代わりに鼻から甘く甲高い声となって俺の脳髄を直撃した。 「ンンーッ!」 すっげ……可愛い! 「いや……だ……アクセル」 存分に口内を貪った後唇を離せば、息も絶え絶えにハリーが訴える。 「なして?俺にこんな事されるのはイヤ?」 出来るだけ優しく問いかけた。 「いやだ……こんな所で……」 きつく目を閉じて顔を背けるのは、怒りや嫌悪ではなく羞恥からだろう。 明るい浴室内、反響する声、湯の中での愛撫。くつろいで入浴していたところを突然乱入されて、なんの心の準備もないままに身体を弄ばれて、それに感じる己の身体。 俺はクスッと笑って彼の髪を撫で、頬に手を当ててこちらを向かせた。 「じゃあさ、ベッドでだったら……いい?」 そう囁くとハリーの目が見開かれる。 返事を待たずに挿入したままだった指を抜いた。その刺激にハリーが小さく呻く。 そして立ち上がり湯船から出た。 見下ろすと、すっかり泡が消え量が減った湯の中で、茫然とへたり込んで俺を見上げるハリー。まるで水溜りの中で転んでしまった子供のような姿。 「先に行ってるよ。あ、ちゃんと髪乾かすんだぜ?待っているから」 そのまま出て行きかけて、だが思い直してもう一度ハリーの傍まで来ると、顔を近付けて耳元で囁いた。 「続きがしたかったら、勇気を出して自分から俺の所に来いよ……」 その言葉にハリーがどんな顔をしたかは見なかった。 これは賭けだ。 わがままな男だと思っているだろう。勝手な奴だと怒っているかもしれない。 散々身体を嬲って追い上げておきながら熱を持った身体を放り出した。ハリーから俺を求めて来るよう仕向けた。 そんな、プライドを逆撫でするような俺の言葉や態度をハリーは許さないかもしれない。 それでも……。 俺を求めてほしい。 お前が必要なのだと言ってほしいんだ。 「は…ッ……んんっ……あ…ああぁ!」 「ここ?ハリー……いい?」 イイ部分に俺が当たったらしく、ハリーの身体が眼下で跳ねた。 その敏感な場所目がけて抉るように腰を動かす。さらに、声を抑えるため自分の口を塞ごうとする手を両方ともシーツに押さえ付けた。 中心に楔を打ち込まれ四肢を拘束された不自由な身体は与えられる快楽に身悶える。唯一自由にされた口は強制的に声を上げさせられる。 そんな、普段冷静なハリーから想像出来ないような淫らな姿態に酷く興奮した。 ハリーは、ベッドで待つ俺の所に来てくれた。 驚き半分、喜び半分。 信じられない思いもあって、“続き”を望んでいるのかと訊けば、彼は何も言わず自分でバスローブの帯を解いた。 そうであれば躊躇する理由なんかない。数ヶ月ぶりなんだ。風呂場での駆け引きじみた事なんてもう出来やしない。 我慢出来ず、俺はあっという間にハリーの身体を組み敷いていた。 「気持ちイイ、あんたのココ。熱くてとろとろで吸いついてくる……」 沈めた腰を数度揺すり上げて“ココ”をハリーに知らしめる。 「感じてる時の顔よく見せて……。可愛い鳴き声もっと聞かせて……」 さらに深く身体を折り、脚を大きく開かせた。 「やらしー眺め……。俺のが挿入ってるとこ、そっから見えない?ほら……」 腰を前後にスライドさせて、ハリーの視界に俺自身の存在を誇示する。 「や……やだ……っ!」 「ちゃんと見ろよ。今、自分が俺にどんな事されているのか」 嫌がる言葉とは裏腹に、彼の身体はますます淫らな反応を示す。羞恥心のエッセンスが効いて快楽に蕩けていく身体が堪らない。 罪悪感には快楽、快楽には羞恥心。 そんな言葉の通りに、俺は卑猥なセリフを囁き何度もハリーをいやらしい体位にした。 視線で犯して、言葉で辱めて、ハリーを高みに追い詰め、その乱れる姿に自分が煽られてヒートアップし……。何度それを繰り返したかわからない。 「俺が欲しいって言ってよ……。俺とこうしたかったって、言ってよ……!」 弱い所への度重なる責めに、もはやハリーは抗う力もなくし俺にされるがままだ。 彼の甘い悲鳴を聞きながら、俺は悦びで頭がおかしくなりそうだった。 目が覚めると抱き込んでいたはずのハリーの姿がなかった。 シーツに温もりは残っていない。まるで最初から居なかったみたいに冷えている。 名前を呼んでも返事はおろか気配すらなかった。 そして決定的な事に、ベッドの足元にあったはずの彼のバッグがなくなっていた。 ハリーはアメリカに帰ったんだ。 血の気が引いた……。 『でも忘れないでアクセル。そこには愛がないと意味ないのよ』 俺は“愛”を置き去りにしてはなかっただろうか。 ハリーには何も伝わらなかったんだ……。