浅い眠りと覚醒を繰り返して朝が来た。
今はしっかり目を開いて、だがベッドから出る気になれず、ぐずぐずとシーツに包まっていた。
そのまま手を伸ばしてブラインドの羽を水平に開く。
早朝のレ・アールの繁華街は静かだ。
今はうす曇りだが天気予報によると昼頃には青空になるらしい。
やわらかな光を放つ白い空を見上げながら、俺は昨夜のルカの話をぼんやりと思い出していた。


『アクセルの奴、なんでブライアントと一緒に居やがるんだ?』
ゾーイはそう言ったらしい。
時間からすると、どうやら昼メシを食べにシーフードレストランに向かって歩いているところを見かけたようだ。
「最初、車から後ろ姿を見つけた時、隣を歩いていた奴の髪が長かったから、てっきりお前の新しい女かと思った。けど、信号待ちで止まって振り返って顔見たら男だったんだよな。俺はお前の今まで見た事もない楽しそうな様子に驚いたけど、ジイさんは別の意味で驚いてたな」
もちろん、いい意味での驚きではなかっただろう。
ブライアントって誰です?とルカが訊いても何も答えず、ただ小さく舌打ちを零して不機嫌そうに黙りこんでいたという。
そこでルカの推理はこうだ。
俺と一緒に居てゾーイが快く思わない人物。例えば、他のシマの同業者。もしくは警察。
なんらかの情報を俺が故意に漏らしているか、騙されて喋っているか……。
お前が俺たちを売るわけがないってのはわかってるぜ、とルカは言う。
あの男からは同業者の匂いはしないのだと。だが、ヤバい奴なんじゃないか?とも言った。
「なあ、デカじゃないのか……?」
ゾーイが見たのは疑いようもなく俺とガブリエルだ。
顔を正面から見てブライアントだと言った。
なぜ、アメリカから旅行に来ているあの人を知っている?
裏社会のボスと天使みたいな男は、なぜ、どのように繋がっているんだ?
デカじゃないのかだって?あの男は誰なのかだって?
そんなの、こっちが訊きたい!




この夜もいつも通りに店に出た。
が、この日の俺は何をやってもメタメタで、失敗に次ぐ失敗の連続。
フルーツ皿を3枚、カクテルグラスを2個、ウォーターグラスを5個割った。
おまけにボックス席の紳士の膝に水をぶちまけ、カウンターの女性客には白ワインと間違えてテキーラでスプリッツアーを作り、思い切り吹かれた。
年長のホステスのマリーに言わせると、今夜の俺は“心ここにあらず”だそうだ。
二番目に古いコニーには客の居ない所で男の地声で脅しをかけられた。
「てめェ、真面目に働かないとその首へし折るぞコラ……」
地底から下水管を伝って響いてくるような声に、俺は恐怖のあまり声も出ずコクコクと頷く。
それからしばらくの間、俺は気を張って仕事に集中していたのだが、ついにバカラのデキャンタを割ってしまいレディ・ジョーの堪忍袋の緒が切れた。
「下で頭を冷やしてこい!」
帰れと言われなかったのが不思議だが、そう言われた方が良かったかもしれない。
ともかく、俺は店を追い出され地下の空き店舗に休憩という名目でしばらく籠る事になってしまった。


部屋の中はまだ暖まりきらないが寒いという程でもない。
俺はビリヤード台にかけられた白い布をはぎ取り球をテーブルにばら撒いた。
キューを取ってこようと思ったが、何かそんな気分にならない。
仕方なく後ろに積み上げてある椅子を一脚持って来て、ビリヤード台の近くに置いて座った。
煙草に火を点けてぼんやり吸っていると階段を降りてくる足音がする。
たぶんレディ・ジョーだろう。
かつてない俺の数々の失態に心配しないわけがない。つまり、他の者が居る前で出来ない話をしに来てくれたのだ。
ドアを開けて入ってきた巨体に俺は力なく声をかけた。
「ごめん……」
「まったく……らしくないねえ。どうしたっていうのよ」
自分の膝に頬杖をついて言うべき言葉を探してみたが、何を言えばいいのかわからない。
昨夜の話をしたとして、ルカの事を言うわけにはいかない。
ルカが訪ねて来た事が知れたら俺がまた裏の仕事に関わっているとバレるかもしれない。
「あんたの想い人の事かい?」
一本寄越せと言われて俺は自分の煙草と火を差し出す。
「……昨日あの人の事をきな臭いと言ってたけど、何やってる人だと思う?」
「ああ?あたしにわかるわけないじゃないの」
「おまわりに見えるかな」
どうだろうねえ、とレディ・ジョーは煙を吐き出し、少しの間考え込んだ。
「まあ、見えない事もないね。本人に聞けばいいじゃないの」
「訊いたところで言ってはくれないような気がする」
「何か事情を抱えた人なんじゃないかい?こんな事はね、当人たちが解決しなきゃ何も始まらないよ。相手を信じて黙るか、それが出来なきゃぶつかってみるんだね」
レディ・ジョーの言う通りだ。ここから先は俺とガブリエルの間で解決しなきゃ埒があかない。
「しばらく考えな。いつものあんたに戻れるんだったら上がっておいで。そうでないなら今日は帰んな」
「……スミマセン」
「これ以上物を壊されたくないからね。バカラは給料から引くからね」
「ハイ……あ、分割にして」
「いずれにしても、あれはあんたの給料より高いんだよ」
「うそ!……ごめん」
レディ・ジョーは、まったく、とぼやきを残して立ち去ろうとしたが急に思い出したように振り返った。
「それから、あさっては店閉めるからね」
どうして?と訊きかけて思い出した。
「15年……なんだね……?」
「ああ……」
レディ・ジョーのたったひとつの愛。
死ぬほど愛した男が逝って、あさってで15年になる。
毎年その日は店を臨時休業にしていた。何があろうとも日曜日以外は決して店を閉める事がない経営者の、たったひとつの個人的なわがまま。毎年その日、この人は誰にも姿を見られないように恋人の墓参りに行く。
ドアから出て行く後ろ姿を見て俺は思う。
居ない人を変わらず愛し続ける強さと、生きていく強さは比例しているのかもしれない。
俺はまだ幸せなのだ。ガブリエルは生きている。
疑問をぶつける事ができる。
どうして名前教えてくれないの?
どんな仕事しているの?
なんでゾーイがあんたの事知ってるの?
あんた一体何者よ?
そして本当に一番訊きたい事は……。
あんた、俺の事どう思ってるの?
自分でもわかっている。俺は欲張りになってきているのだ。
好きにならなきゃ気にならない事だろう。嘘をつかれてもかまわないとさえ思う。
だけど……。
好きになってしまったのだ。ゲイじゃなかったはずの俺が、年上の男を。
「もう遅いんだよ……」
もはや踏みとどまれない所まで来てしまったのだ。
まばゆい金の光に包まれたあの姿を見てから……。
次第に募ってくる苛立ちに、あの天使を憎いとさえ思った。

レディ・ジョーのような強さは、俺にはまだまだ届かない。




誰かが階段を降りてくる。
ゆっくりとした重い、男の足音。
ドアを開ける音に顔を上げれば、その人物は。
「ガブリエル……」
こんなほのかな灯りの中でも輝いて見えるのは髪の色のせいだろうか。
「また何か嫌な事でもあったのか?」
「あんたこそ、なんでここに?」
と問えば、飲みに寄ったがレディ・ジョーに地下に行くよう言われたという。
「また出直すと言ったんだが、行ってやってくれと強く言われた。どうかしたのか?」
「別に……休憩してるだけだよ」
ガブリエルと目が合わせられない。思考がまとまらない。
彼は、ふーんと言ったきり沈黙してビリヤード台に歩み寄って来た。
球は置かれているがキューが無い事で、俺がプレイもせずにいた事に気が付いただろう。
目を向けると、彼のテーブル上を見つめる端正な横顔。
手球をしばらくその手で弄んでいたが、それを勢いつけて転がした。
カンカンッ、と二度球同士がぶつかり合う音がし、ひとつポケットされ、手球はまた彼の元に戻ってきた。
こんな手遊びですらコントロールされた動きに少し驚く。
「今夜は俺、酒作ってやれねぇかも……」
俺の呟きに彼は無言でまた手球を転がす。またひとつポケット。
「言いたくない事は無理に聞き出そうとは思わない。だが、私に関係する事じゃないのか?」
彼は、皆目見当がつかないが……と付け加えた。
「あんたにはわからんよ」
俺がそう言うと綺麗な横顔がフッと笑った。
「そうだな、私にはわからないさ。そんな……ゾンビみたいな目をしている理由なんて」
カンッ!またひとつ落ちる。
「自分が誰かの悩みの対象になるって、どんな気分よ?」
何かイライラする。
「いいわけないだろ。迷惑なだけだ」
ガブリエルは俺を見ない。
戻ってきた手球を取り上げ、手のひらで弄ぶ。俺を見ずに。
ああ、イライラするぜ。
「人の悩みなんて、他人にしてみればちっぽけなものだ。だが、どんなにちっぽけでも他人はどうにもできない。自分でなんとかするしかないんだ」
それは至極当然の意見だ。
だが、静かに紡ぎ出されたこの言葉は、鋭利なナイフとなって今の俺の胸を酷くえぐった。
「あんたに……あんたに、そんな事言われたくねえよ。……ブライアントさん」
瞬間、ガブリエルは弾かれたように俺を振り返った。驚愕に見開かれた青い瞳。
俺は立ち上がって彼の元にゆっくり歩み寄る。
「訊きたい事は山ほどあるよ」
そしてビリヤード台に片肘を預けて、まばたきできないでいる青い瞳を覗き込んだ。
「あんた、誰?」
目線を彼の高さに合わせてずいっと顔を近付ける。
「ゾーイとはどういう関係なんだよ」
途端にガブリエルは眉をきつくしかめて険しい顔になった。
「お前こそ……どうして白ふくろうを知っているんだ……」
「白ふくろう、ね……。そのあだ名を口にするって事はゾーイの表の商売じゃなくて、裏の方での知り合いらしいな」
言われて彼はぎりっと奥歯を噛みしめた。
「大した関係でもないし、お前が気にするほどの知り合いというわけじゃない」
そう?と言って俺は身を起して彼を見下ろした。
「あんた、デカ?」
「はあ?」
「麻薬密売組織を摘発するためにゾーイを追っかけているデカじゃねえの?」
「何言ってんだ?お前」
とぼけるガブリエルの言葉は無視して、俺は喋り続けた。
「ゾーイの情報得るために俺に近付いたのか?俺を……利用してたんだ」
「馬鹿馬鹿しくて話にならないな。そういうお前こそどうなんだ?いろいろなヤバいもの売ってたって話は過去の話ってわけじゃなさそうだな」
俺は、うっと言葉を呑んでしまった。
知られたくなくて、ついこの人に言ってしまった嘘。言い返せない。だが……。
「現役の売人か。何やってんだ、馬鹿」
そうなじられてカッとした。
「そうだよ……辞めたくても足を洗えずにいる弱い男だよ、俺は。だがな、その売人相手に色仕掛けしているあんたはどうなんだよ!」
「くだらない……」
ガブリエルは冷たい目で俺を見上げた。
「くだらない勘違いするな。少し頭冷やせ」
そう言い残して背を向けようとしたその両肩を、俺はしっかり掴んでこちらを向かせた。
「俺の言ってる事が違うってんなら、じゃ本当はなんだよ。言えよ!」
掴まれた肩を、彼は驚くほどの力で振り払った。
「お前には関係ない」
関係ないだと……?
今度こそ出口へと向かう後ろ姿。
「てめ……逃げんな!」
ガブリエルの左手首を掴んで引き戻した。
骨っぽくて細い手首。俺の手がでかいせいもあるが、余裕で指が届いてしまう。
俺はつい、必要以上にギリギリと力を込めて握り込んでいた。
「離せ……アクセル」
苦痛にしかめる顔に俺は顔を近付け囁いた。
「なあ、気付いてたんだろ?俺の気持ちに」
そう言われて驚き怯えたような瞳を見ていると、なんだか酷く凶暴な気持ちになった。
俺の中で獣が目を覚ます……。
「そうさ、あんたの事……女みたいに抱きてえって思ってんだよ」
「やめろ……」
俺は微笑みながら、静かに淡々と喋り続けた。
「楽しかったろ?いいヒマ潰しだったろ?こんな単純馬鹿なガキ、からかうのはちょろいもんだったろ?おまけに色ボケしてるホモ野郎なんて面白いオモチャ……」
突然、左頬を思い切り平手で殴られた。
目の奥がスパークするような結構な痛みだったが、手首だけは離さなかった。
打たれた頬に手を当てる事もせず、真横に振られた顔もそのままに、目だけを動かして彼を見る。
振り抜いた手の形もそのままに、ガブリエルは怒りに震えていた。
燃えるようなその瞳。炎が見えるようだ。怖いくらいに美しい……。
それを見て俺は完全に火が点いてしまった。
もう一方の腕でガブリエルの身体を抱くと、足を払いなだれ込むように床に押し倒した。
「アクセル!」
悲痛な声を上げ必死にもがき抵抗する細い身体をねじ伏せながら、俺はどうしようもなく興奮していた。
「目を覚ませ、馬鹿!」
俺の胸を押し退けようとする彼の右腕を捕まえて、左腕同様に床に押さえ付けた。
見下ろすと、眼下には自由を奪われた美しい生き物。
暴れて、捕えられて、息をはずませるその姿態は酷く扇情的で、血液が一気に下半身へと集まる。全身に広がる欲望の渦に、思考も理性もあっという間に飲み込まれた。
泣いて許しを乞うほど激しい快楽と恥辱を与え、俺という存在をその身体に思い知らせてやりたい!
酸素を求めて開かれた唇に惹きつけられ、自分の唇を寄せる。だが、重なる寸前で彼は顔を背けた。それを深追いせず、代わりに晒された首筋に舌を這わせる。
「く……っ……」
熱く濡れた感覚に彼は小さく声を上げ、肩を震わせた。
まるで生娘みたいな反応にますます煽られる。
舌は首筋から喉を通り、顔の輪郭をなぞって耳元へ。
「犯るぜ……?」
耳元に、俺は静かに囁いた。
ガブリエルの両腕をひとまとめに拘束し、彼の頭の上に押さえ付けた。
空いた右手をシャツの裾から中に入れ、直接肌をまさぐる。初めて触れるガブリエルの肌。硬く引き締まった筋肉に、熱くて滑らかな手触り。
その肌の感触に夢中で手を動かしながら、同時に首筋や鎖骨に唇を這わせた。
だが、その時。

「……それで満足するのか?」

俺の顔の横でぽつりと呟く静かな声。
俺は動きを止めた。
「それで、少しでもお前の気が晴れるか……?」
その優し気な問いかけに顔を上げてガブリエルと向き合う。
悲しそうな眼差しがそこにあった。
「もしそうなら、好きにしたらいい……」
こんな身体くらい、と静かに微笑まれて急に胸がギリッと痛んだ。
この時になって俺は初めてガブリエルが抵抗をやめていた事に気が付いた。
おそるおそる拘束していた手を離し、ぎょっとした。
彼の手首は俺の指の形に皮膚が擦り剥けて血が滲んでいたのだ。
痛かったはずだ……。痛いなんて一言も言わずに、この人は……。
腕が自由になってもガブリエルは動かなかった。
「レイプされたなどと思わないし、お前を恨みもしない。だから心配しないでヤれよ……」
はったりではなく、本気で俺に身体をくれようとしているのだ。
俺は再度身をかがめ、シャツの裾から露わになった脇腹に唇を落とした。そしてジーンズのベルトに手をかけたが……。
「っ……くそっ……!」
出来ない……。
頭を起こし、両手の拳を床の上で力いっぱい握りしめる。
どうしてもこれ以上俺には出来なかった。
この人には勝てない。
この人を凌辱しても俺のものにはならない。言う事を聞かせられるわけでもない。決して心までは手に入らない。
犯したとして、汚れるのはこの人の身体ではなく、俺の心の方だ。
こんな身体、と自分の身体を無価値のようにこの人は言うが、こんな愚かな男にくれてやるなんて自分の価値を何もわかっちゃいない。
あれほど俺の中でどす黒く渦巻いていた欲望は、いつの間にか消えていた。
自分の膝で押さえ込んでいた彼の脚から身を退け、完全に自由にして、俺は彼の足元にのろのろと座り込んだ。
「行ってくれ……」
小さく、俺は告げた。
ガブリエルは何も言わない。いいのか?とも、どうして?とも。
やがて動く気配がして、彼はゆっくり身を起こす。少しふらつきながらもしっかり立ち上がった。たぶんコートが汚れたはずだが、手で払う事もせず乱されたシャツを直しもしない。
「行く……」
短く言って、俺の前を横切って行った。
ようやく顔を上げた俺の目に映ったのは、出口に向かう金色の後ろ姿。男に嬲られかけても輝きを失わない、やはり潔いその背中。
ドアの前でガブリエルは立ち止り、背を向けたまま言った。
「私は一度もお前に嘘はついてないし、なんの企みも持ってはいない。信じる信じないはお前の自由だがな。だが……」
ドアのノブに手をかけ、一瞬ためらったあと言葉を続けた。
「すまなかった……」
言い残し、ガブリエルは出て行った。
階段を昇る足音が次第に遠のき、静かになった。
再び戻ってきた静寂。
その途端、激しい感情の嵐が俺に襲いかかる。
「なんであんたが謝んだよっ!!」
俺は身体を折り曲げて力の限り叫んだ。
「馬鹿野郎!!」
足元にあった椅子を思い切り蹴ると、それは派手な音をたてて吹っ飛んだ。
馬鹿野郎は俺だ。
一度も嘘はついていない、とガブリエルは言った。
ああ、そうなのだ……。名前を訊いた時もそうだ。適当にジョンでもデビッドでも言っておけば簡単だったはずなのに、嘘がつけないあの人は結局口ごもったのだ。
嘘をついたのは俺の方だ。それだけじゃない。何者なのかという思いばかりに囚われて疑って、疑って、疑って……信じてやらなかった。
色仕掛けだなどと……。たくさんしてきた会話の中で、ゾーイの名などどちらも口にした事はなかったではないか。
気付くのが遅すぎる。
ガブリエルはもう二度と俺の前に現れないだろう。
胸の奥から突き上げてくる激しい後悔と喪失感は、熱い流れとなって瞼を潤し、両頬を伝った。
「ちくしょ……」
もはやあの人が誰かなんてどうでもいい。デカだろうが、マフィアだろうが、たとえ俺をはめようとしていたとしても。
だが……自らの手で壊してしまったのだ。
「最っ低だ!俺……」
胸の奥が痙攣しているようで、嗚咽すら上げる事が出来ない。
突き上げてくる慟哭は、しかし声を奪われて行き場を失い、胸を掻きむしらんばかりの痛みとなった。
顔を覆った指の間から、涙はとめどなく流れ続けた。