衣服を整えたロベールと次回の約束を取り付け、ホテルを出る彼を見送った。部屋に戻ると食い散らかされた姿のまま、ハリーがシーツに突っ伏している。惨めなその有様を冷たく見下ろした。
「どうだった?ロベールのセックスは」
  無情な言葉にハリーがゆっくり顔を上げる。
「随分よがっていたじゃないか。気持ちよくて堪らなかっただろう?」
「――何が……気持ちいいだ……」
  怒りに燃える目を向けられて腹が立った。彼の顎を強く掴んで顔をさらに上げさせた。
「あんな声を上げてか?自分がどんな風に泣き叫んでいたか覚えてないか?何回イッたんだ!?答えてみなさい!」
  自分でもわかっている。この苛立ちは嫉妬だ。私以外の男の愛撫に快楽を覚え乱れたハリーに対して、腹が立った。まったく理不尽な話だ……。だが、顎に指が食い込む痛みにも、ぶつけられる罵りの言葉にもハリーは怯まず睨み返してきた。
「ひとでなし……!地獄に堕ちればいい!」
  こんな姿にされながらも、少しも私を恐れないハリーの魂に潔さすら感じて、私は笑って立ち上がった。
「尻を見せなさい」
  その言葉に、信じられないと言いたげにハリーは眉をひそめた。素直に言う事は聞かないと見て彼の足首を掴んでベッドの際まで引きずる。
「嫌だ!ステファン!」
  彼の抵抗を封じ込め尻を抱え込むと、開いた後孔から注がれたオスの淫液が流れてきた。指を入れると中はぬるい液体で満たされている。征服の証……。これを中に残される事を、ハリーはあんなに嫌がったのだ。
「――ッく……あ、あ……」
  ゆるゆると指を動かすとハリーが小さく喘ぐ。驚いた事に、内壁が指を引き込もうと蠢きだした。疲弊しきったはずの身体の芯から、淫らな熱が再び彼を包み始めている。
「まだ足りないのか?――いやらしい身体だ」
  いきなり指を3本まとめて潜り込ませ、弱いポイントを揉みこむと鋭い悲鳴が上がった。
「どうされるのが気持ちよかった?此処を弄られる事か?それとも奥を突かれる事か?」
「やめて!ステファン!もう嫌だあっ!」
  ハリーが拒絶の叫びを上げるが、開いた脚の間で性器が硬く勃ち上がっていた。それだけでなく、その先端から透明の粘液が糸を引いて滴っている。
「本当は私が欲しいんだろう?私に抱いてほしいんだろう?」
「……ク……誰が……っ!」
  気丈に反抗するハリーに、お仕置きとばかりに前立腺を強く擦り上げる。
「――んああぁっ!」
「私が欲しいと言いなさい。――言うんだ!言うまで何度でも此処でイカせるぞ!」
  残酷な愛撫に成す術なく、シーツにしがみ付いて耐えていたハリーの唇から、喘ぎ以外の小さな声が発せられて手を止めた。
「欲しいよ……。あなたが欲しいさ……。そんなの、決まっているじゃないか……!」
  弱々しい告白に、思わず指を抜いて彼を見下ろす。
「俺は、ステファンだけが欲しいのに……それなのに、あなたは……」
  ハリーの瞳から大粒の涙が溢れ、頬を伝った。悲しみに流された涙は皮肉な程美しく、堪らない胸の痛みに襲われた。
「愛してる、ハリー……」
「嘘を言うなっ!」
  弾かれるように上体を起こしてハリーが叫ぶ。そして腕を振り回し、何度も何度も私の胸倉を殴った。本人は精一杯のつもりでも大して威力のない攻撃を、私は黙って受け入れる。
「信じるもんか!愛しているなら何故あんな事をするんだよ、この嘘つき!」
  振り下ろされる両の手首を今度は捕まえて、仰向けに押し倒した。掴んだ両手をシーツに縫い止めて抵抗を封じる。彼の身体に乗り上がって唇が触れそうな程寄せて囁いた。
「愛している……」
「大っ嫌いだ……」
   そして、憎しみを吐く彼の口を塞いだ。
   舌を深く潜り込ませてハリーの舌を捕えれば、待ちわびたように彼が応えた。息さえ奪うように口付けを深くする。ハリーの貪欲な舌が私の口内を隈なく舐めていく。唾液と吐息を交換し合う激しい口付けに、耐えられない程の熱がこみ上げて来た。
   舌を絡ませたままもどかしくベルトを外し、自身を取り出す。ハリーがロベールに犯されている様子を間近で見ていた時から張り詰めていた自分の欲望は、もう限界だった。唇を離して脚を抱え開かせると、男の体液でドロドロに濡れた後孔目がけて突き入れた。
「うあぁ……っ!」
  ロベールの巨根に長時間蹂躙されていたというのに、彼のそこはきつく絡みついてきた。憎しみの言葉とは裏腹に、彼の身体はこうまで自分を求めていたのだと思い知る。
「嬉しいのか……?あんなにロベールに可愛がってもらったじゃないか」
  想う相手との行為と、そうでない者との行為では感じ方が違うだろう。わかっていながらもそう言うのは、ハリーの口からそれを否定する言葉が聞きたいからだ。
「……ステファン以外の人となんか……や……だ……」
「いい子だ――」
  望み通りの言葉に満足して、ハリーの身体を横に向かせ、彼の片脚を跨ぐ。ちょうど松の葉を組み合わせるように横向きに開いた脚の間へ自分の下肢を進めると、ハリーはこれから何をされるのか察知して抗った。深過ぎる挿入は痛いから嫌だと言っていたハリー。だが嫌がる本当の理由は、深い場所での快楽が強過ぎて怖いのだと、私は気付いていた。
「大人しく受け入れなさい。もう、逃げは許さない」
  腰を引き寄せて最も奥まで届く体位でハリーを貫いた。――途端に喉が裂けんばかりの悲鳴が上がる。腰を打ち付ける事はせず自身を限界まで埋め、恥骨を擦り付けるように体内の最奥を亀頭で探った。未知の深部は火傷しそうに熱い。
「――まだだ。動かないで、力を抜きなさい……」
  ゆっくり慎重に、指を1本追加していく。度重なる責めに、ハリーの喉から嗚咽が漏れた。ほとんど声にならない声で、許してほしいと何度も懇願する。
  ロベールに解された蕾は柔軟な弾力で指の侵入をも許した。彼の最も敏感な性感帯を指の腹で押し潰すように捏ねまわす。と同時に腰のグラインドを開始した。2ヶ所の性感帯に施される愛撫にハリーは成す術なく、素直な身体を強烈な快楽の波が襲う。
「ア、ア――ッ!いやあぁぁ!」
   彼はありったけの声で泣き出した。
「君をメチャメチャにしてしまいたい……!」
  腰と指の動きが次第に早くなっていく。徐々に乱暴になる愛撫に抗議するかのように彼の泣き声が甲高くなった。だがその声色は苦痛だけではなく、間違いなく快楽に濡れ、媚が含まれていた。そんな姿を見下ろして言いようのない征服の喜びが湧き上がる。
  愛の名のもとに少年を犯す自分……。こんな風にいやらしい行為を繰り返してハリーを男に抱かれるための身体に仕込んでいき、出口も逃げ道も塞いで号泣の中で射精させる。そんな、彼の自尊心を傷付けるような抱き方を、すまないと思う。だが同時に、もっと汚れてしまえと願っていた。
「もっと大きな声で泣いて、もっと淫らに乱れて……君など汚れてしまえばいい!」
  母親の分まで!――そうなれば、自分はどんなに救われるだろう。
  声が嗄れたのか、泣き声が止んでいた。それに代わるようにガクガクと大きな痙攣が始まる。こんな強過ぎる快感はかえってつらい事だろう。ましてや長時間いたぶられるように抱かれた後なのだ。 それなのに……。
「――ステファン……ステファン……!」
   細い、消え入りそうな小さな声で――こんな風にされてもハリーは私を呼ぶ。また、胸があの痛みに疼く。
   ふと見ると、ハリーは精を漏らしていた。おそらく彼はその事に気付いていないだろう。それほど彼の気力も体力も限界だったのだ。そして、私の猛る欲望も限界だった。痙攣し続けるハリーの内壁に促されるように、彼の中に射精した。


   ハリーをバスルームに連れていき身体を洗った後、清潔なシーツに包んで抱き寄せた。腕枕をしてハリーの頭を優しく撫でれば、彼は肩に頭を預けてきた。こんな風に二人で静かに横たわるのは、あの夜明けの森以来かもしれない。
「ハリー、よく聞いてほしい」
  彼の頭に何度も口付けながら、まるでおとぎ話を聞かせるように言った。
「私が君をロベールに貸すのは、君が本当に私のものだからこそ出来るんだ。そして彼に抱かれる君を見てその思いは揺るぎないものとなった。ロベールはいかに君が素晴らしいかを語る。その時私はどんなに誇らしい気持ちになるかわかるかい?そして彼は、君の身体を通していかに君の気持ちが私に一途であるか、私に深く愛されているかを知るんだ」
  言っている事がわかるか?と尋ねると、ハリーは肩に顔を伏せたまま小さく頷いた。
「君を差し出す前に、私は君を宝物だと言った。ロベールはそのつもりで君を扱うはずだ。だから彼に逆らわず彼の要求に従いなさい。今度はちゃんとやれるね?」
  “今度”という言葉にまた自分は辱めを受けるのだと理解しただろう。だがハリーの横顔は静かなままで、たくさんの涙を溢れさせていたサファイアの瞳も、今は瞼に閉ざされていた。これが一度きりで終わらない事はうすうす感じていたのかもしれない。
「ステファンは、俺が言う通りにしたら……幸せ……?」
  私を見上げてぽつりと小さく問い掛けるハリーの顔は、酷く優しくて穏やかだった。
「ああ、そうだよ……」
  そう答えれば、わかった、と言って彼は再び目を閉じた。
「いい子だ……」
  何処までも無垢で綺麗なハリーが、私のために男の精液に汚されたらいい。マリーの罪ごとその身を凌辱されれば、母親の罪は赦され私は救われるのだ。

――救われる……?そうだろうか……。